「もう悲しませることは絶対にしないから」
夫は私と子供を裏切り、同僚の女と不倫した。しかし、彼の必死の訴えに、ほだされた私は、一度目の不倫を許した。
「二度目は無いよ」と釘をさすため、誓約書も作った。もしも、彼はまた私を裏切り、不倫をしたら、もう許さない。前回分の慰謝料を上乗せして、離婚してやると思うけど、実際どうなの?
一度、「宥恕」したら有責配偶者とは認められない?
宥恕(ゆうじょ)と言う言葉は、あまり一般的ではないので、意味が分からない方が多いかもしれません。宥恕とは、簡単に言うと寛大な心で許すことを指します。
不倫などの理由で、夫を宥恕した場合、有責配偶者として認められないことがあります。有責配偶者とは、以下、民法で定められた法定離婚事由に当てはまる行動をおこなった配偶者のことを指します。
- 不貞行為
- 悪意の遺棄
- 3年以上生死不明
- 配偶者が強度の精神病で、回復を見込めない場合
- その他婚姻を継続し難い重大な事由
なお、配偶者が上記の行動をおこなっていたとしても、客観的に証明することが出来なければ、有責配偶者として認められるのは難しいです。
夫が有責配偶者であることを証明出来た場合、どのようなメリットがある?
夫が有責配偶者であった場合、妻側には以下を請求することが出来ます。
- 相手の合意なしに離婚が可能
- 慰謝料を請求することが出来る
相手の合意なしに離婚が可能
双方に法定離婚事由が無い場合、相手の合意なしに離婚することはできません。つまり、夫婦の話合いによる離婚協議か、家庭裁判所に申し立て、調停委員を交えておこなう離婚調停のどちらかの方法で離婚を成立させなければいけません。
しかしながら、相手方が有責配偶者である場合は、相手の合意なしでの離婚、つまり離婚裁判によって、離婚することが出来るのです。
離婚裁判は、夫婦のどちらかに有責性が認められなければ、原則として申し立てることが出来ないので注意しましょう。
なお、夫婦仲が悪いからと言って、すぐに離婚裁判を起こせるわけではありません。日本では、調停前置主義という概念があり、離婚など家事関係(※)のトラブルについては、原則として裁判を起こす前に調停を経る必要があります。
※離婚、遺産相続関連等、家族間トラブルについてのことを指します。
慰謝料を請求することが出来る
相手方が有責配偶者であり、自らが精神的苦痛を覚えた場合には、慰謝料を請求することが出来ます。離婚のお金イメージと言うと、なんとなく慰謝料を思い浮かべる方も多いかもしれません。
しかしながら、一般的な離婚。例えば、双方に瑕疵の無い性格の不一致によって離婚した場合、夫婦のどちらにも慰謝料請求権は発生しないことが多いです。

【3年それとも20年?】慰謝料の時効とは
前章では、「宥恕」と「有責配偶者」について確認していきました。本章では、先ほども少し触れた、「慰謝料請求権」の時効について確認していきたいと思います。
慰謝料の時効はふたとおりのカウントの方法があり短い方が適用される
慰謝料請求権の時効は、下記の短い方が適用されます。
- 配偶者の不貞行為もしくは、不倫・浮気相手を知ってから3年間
- 配偶者の不貞行為が開始されてから20年間
ちょっと想像がつきにくいので、以下の図もご参考にしていただけると幸いです。
上記の場合、自分が配偶者の不貞行為と不倫相手を知った日の方が配偶者と不倫相手の交際が始まった日の時効より短いため、3年間の方が適用されます。
なお、「不貞行為をしていることは知っているけれど、相手の特定には至っていない場合」は、基本的に「不倫相手を知った日」とはカウントされません。
相手方の氏名や住所等を知っているときに限ります。
また、令和2年4月1日に消滅時効が改正されたともに、内容が少し変更になりました。令和2年3月31日までに20年が経過している際には、改正前の民法が適用されるので、慰謝料の請求はできません。

再度夫に裏切られた時に備えて誓約書は作成しておくべき
不倫などの不貞行為を夫にされたとしても、離婚を選択しない方も少なからずいらっしゃいます。本章では、夫側が何らかの理由の有責行為を働き、宥恕したのにもかかわらず、再度裏切られたときについて考えていきたいと思います。
不倫で再構築を選択した場合の誓約書の意味とは
夫が有責行為を働き、再構築を選択した際、「もう二度と○○のようなことをしてほしくない」と考えるのは当たり前のことです。しかしながら、誓約書のような書面を残す夫婦は、そう多くなく、大抵は口約束で「もう二度と○○しない」と約束するケースが多いです。
契約は、基本的に口約束でも成立します。しかしながら、口約束は客観的証明が難しく、相手方が契約を反故にした場合、水掛け論になってしまう可能性が高くなります。
そのため、夫婦間であっても、約束や契約書は書面にして残しておいた方が良いでしょう。
とはいえ、誓約や契約と言っても、具体的にどのようなものであれば有効性が認められるのかわからない方もいらっしゃると思います。
契約として有効性のある事柄については、おもに以下のようなものが挙げられます。
- 有責行為の事実関係について認める文言
- 再び有責行為をおこなったときの金銭的なペナルティ
- 不倫相手への接見禁止の文言
- 不倫相手と会ったり、メールやSNS等で連絡を取ったときの罰則金
なお、契約書を公正証書ではなく、私文書で高額な罰則金を設定し、その後、調停や裁判で損害賠償を請求したとしても、相手方の収入と見合わないと全額支払われる可能性が低くなりますので、ご注意ください。
また、私文書の契約書は、夫婦間で作成するため、法的効力の無い書面を作成してしまうことが起こりえます。公正証書で残すことがベストですが、内容によっては高額な手数料がかかってしまう可能性も否定できません。
そんな時に便利なのが、私署証書の認証というシステムです。私署証書の認証は、公正証書と同じく、公証役場にて公証人によっておこなわれるもので、押印署名のある私文書の契約書面が法的に無効でないかどうか、違法性が無いかをチェックしてくれます。
加えて、署名や押印の真正の認証もおこなってくれるので、その契約書が夫婦の合意をもとに作成されたことの信用度が高くなります。
とはいえ、私署証書の認証はあくまで、書かれた内容に違法性が無いか、無効ではないかのチェックにとどまります。文章の真実性や正確性を証明するものではありませんので留意しておきましょう。
ちなみに、上記の事柄は夫婦の一方に有責行為があることが前提となります。双方に有責行為がなく、夫婦関係が破綻していないときには、夫婦間の約束は一方的に破棄することが出来ますので、ご注意ください。
体験談
今回は、不倫などの有責行為を夫が行った後、再構築を選択した場合、おこなうべきことなどをお話してきました。本章では、再構築を選択した夫婦の体験談をご紹介したいと思います。
夫婦であっても契約は大事~夫婦がやり直すには契約の書面化が有効かも?~
きの(34)
よしき(35)
夫のよしきは、結婚する前から浮気性でした。タイプの女の子がいると声をかけずにはいられないようで、付き合っているときも女性問題でたびたびケンカしていました。
女関係はかなりだらしない彼でしたが、それ以外の部分は文句の付けどころがなく、性格も穏やかで優しかったので、結局はほだされてしまい、付き合い続けていました。
交際3年をすぎたあたりに、よしきからプロポーズ。結婚したら絶対に浮気をしないことを条件にプロポーズを承諾し、結婚しました。
しかし、舌の根が乾く間もなく。また、生まれついた(?)性格がいきなり変わることなんてあるはずがなく、結婚後1年もたたないうちに他の女と不倫が発覚しました。
彼から、「子供を作りたいね」と言っていた矢先のことだったので、思い切り腹が立ち、「離婚」を突き付けました。
しかしながら、彼の「もうしないから」と真剣さにまたまたほだされてしまい、離婚せず再構築を選択しました。
ただ、彼を愛していましたが、女関係では完全に信用することが出来なかったので、やり直す条件をつけて書面を作成しました。
内容は3つあり、
①夫のよしきは ○○(不倫相手)と不倫したことを認めること。
②今後夫のよしきが○○(不倫相手)と連絡を取ったり会ったりしたら、罰として妻であるきのに、20万円を支払うこと。
③今後夫のよしきが○○(不倫相手)限らず、他の女性と不倫関係を持った場合、精神的苦痛を味わった慰謝料として、妻であるきのに100万円を支払うこと。
といったようなことを書面にしました。
自分で書いたものに法的効力があるかどうか不安だったので、ネットで調べたところ私署証書の認証という手続きがあったので、近くの公証役場に連絡し、夫と一緒に役場へ赴きました。
手数料を1万円といくらかを支払い、手続きをおこなってもらいました。
それから5年。公証役場で手続きを行う契約書を作ったということが効いたみたいで、夫は不倫をしていないようです。少なくとも私が知る限りは。
彼いわく、慰謝料などの金銭的なペナルティもそうですが、書面化したことで、自分がどんな裏切りをしてきたのかが理解出来たそうです。
とはいっても、まだまだ全面的に信用できるレベルではありませんが、もう少しだけ信じてみてもいいのかなとも思っています。現在、妊娠をしておりますので、このまま誠実になってくれることを願わんばかりです。
まとめ
今回は、夫の裏切りを受け、「再構築」「やり直し」を選択した方に向けた、対処法について考えてきました。
不倫は、「人の心を殺す」と言うくらい、サレた側にとってひどい裏切り行為です。しかし、夫への情や、その他事情によって夫と別れられない方もいるでしょう。
そんな方は、再構築する前に、その条件を書面にしておいた方が良いと思います。ただし、あいまいな内容ですと法的効力がなかったり、違法行為のため無効になる可能性も否定できません。「何をしたらいいのかわからない」と感じた方は、一度弁護士等の法の専門家に相談してみても良いかもしれませんね。
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