30代に入って、長く付き合っていた彼氏との別れ。
焦って、合コンとか婚活パーティとか行って、結婚したのが今の夫。
でも、付き合うと結婚じゃ大違い。モラハラ夫と離婚したけれど、なんだかもやもや。私の失敗談。
モラハラ夫のけんじの行動
夫:けんじ(33)
妻:さえり(34)
結婚して1年。私は結婚生活に限界を感じている。
けんじとは、2年前に婚活パーティで知り合った。30歳の時に6年付き合っていた彼氏が海外転勤になった。ついてきてほしいと言われたけれど、仕事が面白くなってきていた私は、その申し出を断った。
その後3か月間は続いていたけれど、地球規模の遠恋に私が断念。私の6年間はあっさりと終わりを告げた。
その後、半年くらいは仕事に打ち込んでいたけれど、周囲は結婚式フィーバー。結婚はうらやましい。それに、子どもも欲しいし、一人で生きていくのはイヤだ。
そう思って、婚活を始めて出会ったのがけんじだった。
職業的にも転勤はなさそうだし、年収もそれなりにある。私も働いてるし、二人で働けば普通に余裕のある生活ができると思った。
それに、けんじの方も結婚願望と子どもが欲しいという願望もあり、トントン拍子で結婚が決まった。
性格も悪くないし、人当たりも良い。若いころの「何も手がつかない」みたいな感情にはならなかったけれど、付き合っていくうちに大切と思えるようになった。
だけどいざ結婚してみると、理想なんかありゃしなかった。思っていたのと違うと思ったのは、新婚旅行から帰ってきたあたりからだった。
まず、家事をしない。その癖、私が食事を作ると、「まずい」とか「犬のエサの方がまし」とか言ってくる。
掃除とか洗濯も、自分ではなーんにもやらないくせに。「雑だからやり直し」とか言われて、次の日仕事なのに、けんじが納得するまで掃除させられた。
そんなことが続いて、私は次第にけんじの機嫌をうかがうようになった。
結婚して半年過ぎたころには、名前でも呼ばれなくなって、「豚」とか「デブ」と言われるようになってしまった。
けんじから、罵られるたびにだんだん自分でも、自分が役立たずのデブで、家事も満足にできないでき損ないだと思うようになってしまった。
けんじさんの行為は精神的DVである
配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(以下DV法)では、次のような行為をDVと定義しています。
(定義)
第一条 この法律において「配偶者からの暴力」とは、配偶者からの身体に対する暴力(身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすものをいう。以下同じ。)又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動(以下この項及び第二十八条の二において「身体に対する暴力等」と総称する。)をいい、配偶者からの身体に対する暴力等を受けた後に、その者が離婚をし、又はその婚姻が取り消された場合にあっては、当該配偶者であった者から引き続き受ける身体に対する暴力等を含むものとする。
上記でDVと定義されているのは、身体的暴力の他、精神的暴力や性的暴力も含みます。
今回、妻のさえりさんが、夫のけんじさんから受けている言動は、精神的暴力といって良いものでしょう。
精神的暴力は、モラルハラスメントともいわれる行為です。精神的暴力とは具体的に次のような行動を言います。
- 大声でどなる
- 暴力を振るうそぶりを見せ、脅迫する
- 相手を見下した態度をとり、バカにする
- 暴言を吐く
けんじさんは、さえりさんに対し、「豚」や「役立たず」と言った暴言を日常的に言っている様子が見受けられます。
モラルハラスメントは、民法770条で定められている、「悪意の遺棄(1項2号)」や「その他婚姻を継続し難い重大な事由(1項5号)」に該当する可能性があります。
つまり、けんじさんは有責行為を行っており、有責配偶者である可能性が高いです。
ただし、精神的暴力を理由に離婚の請求や損害賠償請求として慰謝料を貰うには、精神的DVがあったという事実を立証する必要があります。
別居した時の達成感
けんじからの暴言や、バカにした態度を取られ続けて、だんだん心が疲弊してきた。自宅に帰りたくなくなって、仕事帰り、ふらふらと遠回りをすることが多くなった。
けんじの仕事は大体定時で終わる。対して私の仕事はイレギュラーが発生することが多く、残業が多めだ。
帰りが遅くなる時は、残業開始する時間と、会社を出た時間を必ず報告しなければならない。報告をしないで帰ると、「飯待ってるんだけど」とめちゃくちゃ怒られる。
先に帰ってるなら、ご飯くらい炊いといてくれればいいのにそういうことも一切しない。彼いわく、家事は女の仕事だそうだ。
もっときれいに掃除しろだの、アイロンのかけ方が雑だの、ご飯のレパートリーが少ないだの。義母はもっと完璧に主婦をやっていたと二言目にはそれだ。義母は、専業主婦で私はフルタイムで働いてるんだから、仕方ないじゃんと言いたくなるけれど、言い返そうものなら夜中まで説教が続く。睡眠に支障が出るのは困るから、黙って我慢していた。
黙って我慢し続ければいつか終わると思っていたんだけれど、そんなわけはなかった。
きっかけは、ドラマを見ていた時だと思う。内容はDV男を切れない女性の話で、なんでこんなに我慢してるのとバカじゃないのとあきれながら見ていたところ、自覚した。
私もなんで我慢してんの?馬鹿じゃないの?
Webでモラハラと検索すると、夫の言動は見事にモラハラみたいだった。モラハラを受けて、苦しい時には別居することが大切であるとも…。
頭の中ぱんってはじけた。そっか、我慢ならないなら別居してもいいんだと、目からうろこだった。
もともと行動力がある方の私は、別居の準備を始めた。この先の人生、けんじと一緒に居たいとはもう考えられなくなっていた。
1か月間で新居を決め、引っ越し日は有給をとって、引っ越し業者にはかいつまんで事情を話し、夫が仕事から帰ってくる前に引っ越しを完了させた。とんでもない達成感だった。
精神的暴力等のDVでは別居は有効な手段
精神的暴力等のDVを受け続けていると、精神的に追い詰められ、うつ病等の精神疾患を患ってしまう可能性があります。
そのため、被害が拡大する前に別居するのは、とても有効な手段と言えるでしょう。
勝手に別居すると、別居した側が有責配偶者になってしまうということを耳にしたことがあるかと思います。
確かに、夫婦関係が良好な状況で、突然別居してしまうと、民法770条で定められている、悪意の遺棄(1項2号)に該当する可能性が高いです。
しかし、さえりさんの場合、日常的に精神的暴力を受けています。この状況では、健全な夫婦関係を維持していると言えず、例え相手方の了承なしに別居したとしても、悪意の遺棄に該当する可能性は低いと言っていいでしょう。
精神的暴力等DVが原因で別居し、その後調停等で離婚の可否を争った場合、相手方が、上述の通り、別居を悪意の遺棄と主張することがあると思います。
しかしながら、別居に至った理由をしっかり述べれば、相手方の主張がそのまま通るといったケースは低いと思われます。
また、その裏付けとして精神的暴力を裏付ける証拠があるとより効果的です。精神的暴力は、目に見える暴力ではないので、なかなか立証しにくい側面がありますが、次のような物的証拠があると、有利にことを進められる可能性が高まります。
- 暴言等を録音した音声データや、動画
- 暴言等が記録されているLINEやメール
- 精神的暴力を記載した日付入りの日記
- 精神疾患を患った通院記録や診断書
これらの証拠があると、より真実性のある主張として判断されることが多いです。

調停での誤算
別居して3か月ほど経って、心が安定し、本来の自分を取り戻してきた。けんじと同居生活をしていた時に受けたのは、精神的暴力、モラハラだと理解することができた。
もう二人で住んでいた家には戻れないと感じたし、けんじと夫婦ではいられないとも思った。離婚しかないと思った。
別居した直後、LINEには、けんじから「戻ってこい」「どこにいる」という主旨のメッセージがかなりの数届いたし、着信もかなりの数来ていた。
私は、戻らないし、離婚を考えていると伝えていた。すると、離婚するなら直接話をさせろと言われた。
正直、けんじにはもう顔を合わせたくない。だから、調停を申し立てることにした。
調停で話そうということは、けんじにもメールで伝えた。
調停すれば、私の思い通りに離婚できるし、慰謝料も取れるだろうとなんとなく漠然と思っていた。だって私は被害者なんだし、裁判所だってそこらへんは理解してくれるだろうと、甘く考えていたのが間違いだった。
調停の申し立てから実際の調停日までは2か月くらい空いた。私は、大した準備もせず、また調停がどんな仕組みなのか下調べもせずに臨んでしまった。
結果はさんざん。私は、けんじのモラハラを感情的に訴えただけで、大したことは何もできなかった。むしろけんじの方がちゃんと準備していたらしく、調停委員からは、「以前はうまくやっていたんだから、もう一度やり直してもいいんじゃないの?」と言われる始末だった。
中でも、私の一番の誤算は、調停が1回で終わらないこと。私がこんなに傷ついているのだから、当然調停委員も裁判所もみんな、私の味方だと根拠のない自信を持っていた自分が恥ずかしい。
調停は話し合いなんだから、ちゃんとけんじが私に対して精神的暴力をしていたという証拠を持ってくれば良かった。後悔しても遅い。
初回の調停が終わってから2週間ほど経って、けんじから「結婚生活で減った俺の貯金、20万円を払うなら、離婚してやるし、もう関わらないでやる」と連絡が来た。
はじめは、何で被害者の私が、逆にお金を支払わなくちゃいけないの?と思ったけれど、思ったより疲れていたらしい。
20万円で、けんじとの縁が切れて、離婚できるのならそれでもいいかと思ってしまった。
今考えれば、こんなおかしな話はないし、とことんやればよかったと思うけれど、その時の私は、その話を了承した。
最後は、私の友人を交え、けんじと直接会い、離婚届に署名と判を押してもらった。それと引き換えに20万円も渡した。
それから私はすぐに調停の取り下げを行い、市役所に離婚届を提出した。
離婚したことに全く後悔はないけれど、もっと良い方法があったのではないかと。やっぱり悔いが残る。
でももう仕方がないし、とりあえず手切れ金だと思って無理やり自分を納得させている。
離婚調停は申し立てた側が有利とは限らない
離婚調停を正式に言うと、夫婦関係調整調停(離婚)と言い、相手方を管轄している裁判所、もしくは当事者同士が合意して定めた裁判所で申し立てを行います。
調停では、裁判所が男女2人以上の調停委員、裁判書記官、裁判官(家事調停官)で構成された調停委員会を立ち上げ、そのチームで調停を進めることになります。
調停では、申し立てた側が有利にことを進められるわけではなく、裁判所は双方主張したことをフラットに判断します。
そのため、今回のさえりさんのように、事前準備なしで調停に臨んでしまい、かつ相手方がしっかり準備を行っていると、裁判所は相手方の主張の方に正当性があると判断し、さえりさんにとって不利な条件で話し合いを進められてしまうことがあります。
そのため、調停を申し立てたのであれば、まずはご自身の主張に正当性があると判断してもらえるよう、証拠の確保が大切です。
また、感情に訴えるのではなく、論理的にご自身の主張を調停委員に伝えることも重要になってきます。
また、離婚調停の場合、1回で調停が成立する確率は高くありません。大体2,3回、期間でいえば半年から1年で成立することが多いです。調停によっては、2年以上成立しないなんてケースもあります。
そのため、離婚調停の申し立てを検討している方は、1回で終わることはレアケースであるということをご理解いただければと思います。

まとめ
今回はさえりさんの失敗談をもとに、精神的DVや調停について解説してきました。
離婚調停は、調停委員の存在が非常に大きく、調停員を味方につけるかで、その調停が有利に運べるかどうかが大きく左右されます。
調停委員を味方につけるには、入念な準備が必要です。調停を検討しているけれど、自力で準備を行うのは難しいという方は、弁護士に相談し、依頼した方が良いかもしれません。
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