夫婦といっても、いつでも仲良くいられるわけではありません。
完璧に自分と考えが同じというひとはいないので、ケンカをしたり、言い争いになることはまま起こりえることです。
今回は、夫婦間のトラブルでお困りの方の相談とその対処法について紹介していきたいと思います。
相談者:あゆみさんの場合
相談者:あゆみ(33)
夫:しょうじ(29)
夫は、ジムのトレーナーで、私はそのジムのアシスタントとして働いていました。
体育大の出だけあって、鍛え抜かれた身体に、均整の取れた筋肉。
筋肉フェチ+彼のストイックさに惹かれ、アプローチをして付き合うことができ、1年の交際期間を経て結婚しました。
めちゃくちゃタイプの男性と結婚ができて、すごく幸せでしたが、そんな幸せは半年も続きませんでした。
結婚後の住まいは、今まで私が暮らしていた1DKのマンションでした。
新しいところに住みたいと伝えたのですが、不便がないから、このままでいいと夫が言ったので、流されるまま頷きました。
結婚から2か月ほどして、夫が、「もっと稼ぎたいから、今のジム辞めて個人でやってく」と言いました。
そのころ、私はまだ彼をサポートしたいと考え、「軌道に乗るまで、仕事とか家のこととか頑張るね!」と背中を押しました。
夫は勤めていたジムを辞め、個人でトレーナーの仕事を引き受けるようになりました。
しかし、コロナの影響もあり、仕事は全然軌道に乗りませんでした。
すると次第にやる気がなくなってきたのか、仕事の打診等を行わずに、家でだらだらするようになりました。
コロナで仕事がないのは仕方がない。でも、私は毎日働いて、身体づくりに良いご飯を3食作って、夫が何もしないっていうのは、どう考えてもおかしいですよね?
収入が激減っていったって、家の光熱費くらいは出せるはずだ、と伝えると…。
「ここはお前の家だろ??家賃も光熱費もお前が出すのは当たり前じゃん。それに夫婦なんだから、旦那の仕事が全然ないんだったら、働くの当然でしょ。何言ってんの?」
え、私が悪いのか?夫から予想外の返事をもらい、混乱しました。
結局夫のトンデモ理論に押されてしまい、生活費も家事も私がすべてやっています。
冷静になって考えると、やっぱり夫がおかしいと思います。
男がお金を稼げなんてことは思っていません。けれど、仕事がほとんどない状態なら、働いている私の代わりに少しくらい家事を手伝ってもいいんじゃないかと思います。
子どもも産みたいけれど、現状でいっぱいいっぱいで、更に育児も、となると今の夫では考えられないです。
夫が、家事をするなり、協力してくれるのならば、お金を稼がなくても良いと思っていますが、現状が続くようなら離婚したいと考えています。
夫がヒモのような生活をしていても、仕方ないのでしょうか?また、離婚を切り出すと慰謝料とか言ってくるような気がします。
その場合、私は慰謝料を支払わなければならないのでしょうか?教えてください。

あゆみさんの悩みに対する弁護士の見解
今回、あゆみさんが気になっている点は、下記の点かと思います。
- あゆみさんの夫の言い分が正しいのか
- 離婚を切り出した場合、慰謝料を払わなくてはいけないのか
あゆみさんの夫の言い分が正しいのか
あゆみさんの夫、しょうじさんの言い分が正しいのかというと、正しくありません。
夫婦には扶助・協力・同居の義務があり、これは民法でも定められています。
つまり、簡単に言うと、特別な事情がない限り、同居し、協力し合って夫婦生活を送りましょうね、ということです。
今回のあゆみさんのケースでは、夫のしょうじさんは、扶助協力の義務を果たしていないと考えられます。
扶助協力の義務とは、お金を稼ぐという意味だけではなく、家事や育児等の協力も含まれます。
例えば、あゆみさんが収入面を支えているのならば、しょうじさんは、掃除や洗濯、食事等のサポートを行うべきなのです。
夫婦の役割分担、負担の割合等は、夫婦によってさまざまなので、正解はありません。
しかし片方にだけ負担の比重が大きいのは、夫婦の扶助協力の義務違反を果たしてないと言えそうです。
あゆみさんが離婚を回避したいのなら、生活の負担割合が不満であることを伝え、夫婦の義務を果たしていないことを、しょうじさんへ伝えることが大切です。
あゆみさんの意思を明確に伝えることによって、しょうじさんの意識が変わり、負担割合が軽減することがあるかもしれません。
なお、ひとつだけ注意点があります。
いくらしょうじさんが気に食わないからといって、生活費を渡さない、何も言わずに別居する等の行為は絶対にしないでください。
相手の生活が成り立たないとわかっていて生活費を渡さなかったり、別居をすると、民法770条で定められている、悪意の遺棄に該当する恐れがあります。
悪意の遺棄として認められると、自分から離婚することができなくなったり、損害賠償請求をされたりする可能性があり、あゆみさんが不利な立場に置かれる場合もあるのでご注意ください。
離婚を切り出した場合、慰謝料を払わなくてはいけないのか。
離婚における慰謝料とは、配偶者の行為によって精神的苦痛を受けた対価として請求されるものです。
離婚を切り出す=精神的苦痛とはならないので、あゆみさんから離婚を切り出しても慰謝料を支払う必要はありません。
離婚で慰謝料を請求するためには、下記、2つの条件をクリアする必要があります。
- 相手方の行為が裁判上の離婚事由に該当するか
- 1の理由で精神的苦痛を受けたか
1.相手方の行為が裁判上の離婚事由に該当するか
裁判上の離婚とは、民法770条に定められており、以下の理由となります。
①不貞行為
②悪意の遺棄
③3年以上生死不明
④配偶者が強度の精神病で回復を見込めない場合
⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由
前提として慰謝料を請求するためには、上記のいずれかに当てはまる必要があります。
これらの行為は、有責行為、法定離婚事由と呼ぶこともあります。
2.1の理由で精神的苦痛を受けたか
慰謝料を得るためには、配偶者の行動が1に当てはまり、かつ精神的苦痛を受けたということを立証する必要があります。
慰謝料とは損害賠償の一種です。損害賠償とは、他人の権利、または法律で保護される利益を故意、または過失によって侵害したひとに対し、請求することができます。
例えば、ダブル不倫等の状態で慰謝料を請求したとしても、精神的苦痛を感じていないと判断され、慰謝料が得られない、または減額される可能性があります。
今回のケースでは、あゆみさんは裁判上の離婚に当てはまる行動をしていないと思われます。
そのため、夫のしょうじさんが慰謝料を請求する権利を持つことができません。
慰謝料は、離婚を切り出した方が払うものではありませんし、離婚すれば必ず発生するお金ではありません。
夫のしょうじさんから慰謝料の要求を受けた場合には、自分に落ち度がないということを説明したうえで、慰謝料を支払う必要がないときっぱり伝えて良いと思います。
それでもなお、要求してくる場合には、夫婦関係調整調停(離婚)を申し立てて、裁判所に仲裁を求めたり、弁護士に依頼を検討したりすることをおすすめします。

まとめ
今回は仕事もせず、家事もまったくしてくれない夫をもつあゆみさんの相談と、その見解について紹介させていただきました。
同じような悩みを抱え、夫に改善の余地がないときには、離婚を考えても良いかもしれませんね。
コメントを残す