人間の三大欲求とも言われる「食事」。
そこまで食べることに執着しない人にとっても、生きていくうえで欠かせないものです。
パートナーとの食事の価値観が合わないと、日々の不満の積み重ねによって離婚問題に発展してしまうことだってあり得ます。
今回は、体験談を交えて食に対する価値観の違いによって離婚に発展する事例を紹介したいと思います。
【メシマズ】夫に食事が美味しくないと言われケンカに発展
【登場人物】
妻:奈々(45)
夫:勇気(45)
娘:梨花(15)
結婚してちょうど10年。
夫の勇気とは、まあまあ良好な関係を築いている。
おととし分譲マンションを買って、ローンの支払いはあるけど、娘に洋服とかおもちゃを買ってあげられないわけじゃないし、ごくごく普通の生活を送っている。
ただ、日々の生活のなかで、どうしても苦手なことがある。
それは、料理。
主婦やって10年になるけど、これだけは苦手。
まあでもとりあえず火を通せばどうにかなるし。
子どもには美味しくないとか言われるけど、夫はそこまで食事にこだわるひとじゃないし、食べられるものなら何でもいいでしょ精神で考えていた。
ある日、夫のスーツをクリーニングに出そうとして、ポケットとかを探っていると、食事のレシートが出てきた。
金額は2人で15,000円。
普通に結構な金額じゃない?
てか、こっちは外食もしないで、自炊してるっていうのに!!
なんなら私なんてお昼パン1個とかで済ますこともあるのに、なんで夫だけこんな高級なところに行ってんの。信じられない。
早速仕事から帰ってきた夫を問い詰めた。
すると不満げに、反論してきた。
「たまには外で食べようっていっても、「外出が面倒」って言って断ってばかりじゃないか。それなら俺が料理作るって言っても、「高い食材使って材料費がかかる」って言って、台所にも立たせてくれない。俺は、美味しいご飯が食べたいんだよ。小遣いをやりくりして外食したんだから、許してくれよ。この際だから、はっきり言うよ。君のご飯美味しくないんだよ!!」
かちーんときた。
こっちだってパートして、掃除とか洗濯しながらご飯作ってるのに。
大体、火が通ってれば大概のものは食べれるじゃん。
食事にこだわるなんて、めっちゃわがまま。信じられない。
こんな人だとは思わなかった。離婚したい!!!
食事に対する価値観の違いで離婚が可能なのか
たかだか食事についての意見の違いで、離婚にまで発展するのは、くだらないと考える方もいるかもしれません。
しかし、冒頭でお伝えした通り、食は人間の三大欲求のひとつです。
三大欲求には食の他に、睡眠欲と性欲があります。
例えば、毎晩おそくまで寝ている横でゲームをされたり、お酒を飲んで深夜に帰宅するなどで毎日のように睡眠を邪魔されたり、「セックスなんてしなくてもいいじゃん」とセックスレス状態になったらどうでしょう。
離婚を考える方も少なくないと思います。
食事の価値観の違いは、他人から見ると小さなトラブルと思われがちですが、離婚原因としてもっとも多いといわれる「性格の不一致」の中でも、意外によく耳にする原因のひとつとなっています。
食に対するトラブルを理由に離婚したい場合、通常は相手方の同意を得ることができなければ離婚することは出来ません。
食に対する考え方や、価値観はひとそれぞれであり、夫婦のどちらか一方に原因があるとは言えないからです。
そこで、相手の同意を得られない場合には、裁判所に調停を申し立てて協議します。
それでもなお同意を得られない場合には、法律上で定められている離婚事由(以下有責行為といいます)に該当することが必要で、かつ離婚裁判を申し立て、裁判所に離婚を認められることが必要です。
今回は裁判離婚の詳細は省略しますが、裁判離婚を行うのは決して簡単なことではありません。
食事に対する価値観の違いは、ただちに有責行為となるわけではありません。
夫婦で話し合い、折り合いをつけることが大切です。
食に対する価値観の違いはくだらないことじゃない
夫と食事でケンカをした次の日。
夫は、「昨日は強く言いすぎてごめんね」と謝ってきた。
でも正直、全然許せない。
無視を続けていると、LINEで連絡が来た。
昨日は、強く言って本当にごめんね。
奈々もパートをしながら、家事や育児をやりくりしてて、本当に大変だよね。
いつも感謝してます。ありがとう。
ただ、やっぱり、俺にとって美味しい食事を食べたいっていうのは、なかなか捨てきれません。
別に、手作りで美味しいご飯を作ってほしいとか、そういうことじゃないんだ。
ひとには向き不向きがあるんだから、食事を作ることにストレスを感じるなら、時間があるときは俺が代わるし、お惣菜だって冷凍食品だって使えばいいと思う。
だから、今日みたいに無視しないで、話し合いをしたい。お願いします。
謝罪と感謝をしながらも、自分の食についてのこだわりは捨ててないじゃん。
イライラしてきた。結局、私に頑張れってことでしょ?
何なの?…いいよ。そんなに話し合いたいなら、離婚に向けて話し合ってやる!!!!
その日は、ムカつきながらパートに行った。
どうにもムカつきが収まらなかったので、誰かに共感してもらおうと思って、パート先の同僚で、主婦のまりこさんにこの話をすると、かえってびっくりされた。
まりこ「お惣菜とか冷凍食品でも良いって言ってくれるならよくない?しかも、旦那さん時間あるとき、ご飯作ってくれるって言ってるんでしょ?」
私「いやいや!でもさー、作ってくれるにしても食材費安くしてくれないし、惣菜だって、冷凍食品だってお金かかるじゃん」
まりこ「いやいや。揚げ物とかの手間がかかる惣菜って、意外と買っちゃった方が後片付け楽だし、全体的にコストかからないことってあるじゃん」
私「でも、どうせ食べたら一緒だし。火が通ってたらおなか壊すことないし、効率的じゃん」
まりこ「そりゃさ、食べものに関しての価値観てそれぞれだけど…。食育って知ってる?確かにおなかに入れたら一緒かもしれないよ。でも、食事ってただ栄養とるためだけのものじゃないと思うけどな…。奈々さんの言い分もわかるけど、私はちょっと旦那さんに同情しちゃうかも…」
共感してもらおうと思っていったのに、まさかの私が悪い?
え、私悪くないよね?
だって、私の子どものころだって、別にご飯のおいしさなんて求めちゃいなかった。
そうやって自分が正しいと思ってみたものの、何か大きい勘違いをしているんじゃないかと不安にもなってきた。
極めつきは、娘の梨花の言葉だった。
その日、学校で調理実習をして、味噌汁を作ったらしく、それがとても美味しかったらしい。そのため、「出汁を取ったお味噌汁が飲みたい」と言ってきた。
いつも、「ほんだし」入れてるじゃん、と言い返すと、娘はむっとして、
娘「お母さんはいいよね。おいしいとかまずいとかわからないんだもん。お父さんなんてよく我慢してたと思うわ。昨日お父さんの言い分に離婚的なこと言ってたけど、離婚するならお母さんじゃなくてお父さんについていくから。節約って言ったって、お母さん化粧品とか買ってんじゃん」
私「それは最低限のマナーでしょ!それに、節約だってあんたのこれからかかる学費を思って、言ってるのよ」
娘「だったら、なおさら節約するの食費の前に化粧品でしょ?最低限のマナーなら、別にDiorとかシャネルとかじゃなくていいじゃん!口紅一本に7,000円もかかるなら、その分減らして食費に回してよ!!お母さんのこだわりが化粧であるように、お父さんのこだわりは食事なんだよ!なんでわかってあげられないの!!」
娘の言葉にはっとした。
メイク用品は、私がすごく大切にしているものだ。
夫は、メイクについて理解を示してくれていて、多少高いものであっても、そこに文句をつけられたことは無かった。
そうか。私がメイクを大切にしているのと一緒で夫も食事を大切にしているのか。
「離婚してやるぞ」と息巻いていた気持ちはすっかりしぼんでいた。
相手が大切にしている価値観を即否定しない
今回、奈々さんは、夫の勇気さんの食に対するこだわりを、「わがまま」と決めつけ、憤りを感じていました。
しかし、実際は、勇気さんは奈々さんに対して、「手作りで美味しい食事を提供してほしい」と希望しているわけではなく、惣菜や冷凍食品、外食等、奈々さんにとって負担がかからないよう妥協案を提示していました。
妥協案に対し、聞く耳を持っていなかった奈々さんですが、周囲の苦言によって、勇気さんが奈々さんの価値観を大切にし、尊重していることに気づくことができました。
今回のケースではわだかまりが解消されて、事なきを得ましたが、感情的になっていると、周囲の言葉が耳に入らず離婚に突き進んでしまうケース等も考えられます。
もしも、奈々さんの離婚の意思が変わらず勇気さんと離婚に至った場合も想定して、離婚後の親権についても少し触れておきます。
通常、親権は母親の方が取得しやすいと言われ、実際に離婚した夫婦の8割近くは母親が親権を取得しています。
しかしながら、離婚するとき、子どもの年齢がある一定程度に達していた場合、子どもの意思が考慮されます。
今回の場合、娘の梨花さんの年齢は15歳です。
15歳であれば、判断能力を持っていると解され、梨花さんが父親と一緒に暮らしたいと望んだ場合、その希望が通る可能性が高いです。
親権を勇気さんが持った場合には、奈々さんは非親権者となり、養育費を支払う必要があります。
養育費は、母親だけが有する権利だと思い込みがちですが、子どもを監護する親権者に加え、子ども自身にも付与される権利ですので、注意が必要です。

話し合いによって離婚を回避する
同僚のまりこさんや娘からの言葉に、自分の考え方がどれだけ身勝手だったのかとなんとなくわかってきた。
昨日の「離婚してやる」って言う気持ちは完全になくなり、夫になんて話そうか考えた。
ちゃんと話し合わなくちゃいけない。
このままじゃダメだと思い、帰ってきた夫と話し合うことにした。
夫「良かった。だいぶきついこと言っちゃったから無視されるかと思った」
私「今朝は無視してごめん」
夫「話し合いに応じてくれてありがとう」
久々にちゃんと夫と話をした気がする。
食について、夫が改めてどんなことを希望しているのかを聞き、腑に落ちていく。
夫に娘から言われた、出汁のお味噌汁についての話をすると、「それじゃあ、今度の休日に一緒に作ろう」と言ってくれた。
冷静になって改めて考えると、夫はいろいろ私に譲歩してくれていたんだと涙が出てきた。
それなのに、私は頭ごなしに決めつけて、夫の意見を全く聞かずにいた。
離婚回避するには夫婦間で妥協点を見つけることが大切
今回の場合、同僚のまりこさんや娘の梨花さんの言葉によって、奈々さんが自身の考え方の偏りを自覚し、夫の勇気さんと話しお互いの価値観を認め合って、離婚を回避することができました。
個人の体験や身を置いてきた環境、育った家庭に、まったく同じものがない以上、価値観や考え方に、一通りの正解があるわけではなく、人の数に応じて人それぞれの正解があります。
奈々さんと勇気さんは話し合いによって価値観のすり合わせができましたが、相手方の意見を聞かず、「自分の考えが正しい」と押し付けてしまうと、大きなトラブルになることがあります。
過度なマイルールの押し付けは、モラルハラスメントとみなされる場合があり、その悪質さによっては、有責行為と判断される可能性をはらんでいます。
モラルハラスメントは、民法770条第1項で離婚事由として定められている、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当し、一方的に離婚されたり、慰謝料を請求されたりする恐れもあります。
モラルハラスメントは男女関係なく発生し得るものです。
例えば、夫だけの食事場所を隔離し、別のものを食べさせたり、夫の食事を全く用意しないということを継続的に行うと、夫ではなく妻側が有責配偶者となることもあるのです。
まとめ
今回は、ひとつの家族の体験談を基に、食の価値観の違いによる離婚について考えていきました。
夫婦と言っても、別々の人間なので、考え方や価値観等さまざまな違いがあります。
夫婦で価値観に対するトラブルがあった場合、正解は人それぞれ違いますので、明確な答えがあるわけではありません。
離婚問題に発展させないようにするには、日々のコミュニケーションが大切です。
夫婦で話し合いを行い、妥協点や許容できる点を見つけていくと良いでしょう。
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