【養育費について考えよう】養育費の支払いは絶対?法的な拘束力はあるの?

子どものいる夫婦が離婚する場合、必ず取り決めておくべきお金として、養育費が挙げられます。養育費の支払いは親の義務であり、受け取りは子どもの権利とも言われています。しかし、具体的に支払いには何か拘束力があるのでしょうか?養育費の支払い義務者が支払いに応じなかった場合、何かペナルティはあるのでしょうか?

今回は、養育費の支払い義務や、法的な効力について確認していきたいと思います。

養育費の支払い義務とは?養育費の不払いで泣き寝入りが多い原因を知ろう

養育費の支払いは法律上の親の義務ですが、実際の支払い率は非常に低く、定期的に支払われている割合は、全体の3割にも達していません。こんなに低い割合だと、果たして本当に義務なのかという疑問すら湧いてきそうです。

実際法律にはどのように定められているのでしょうか。

 

養育費の支払い義務は民法で定められている

養育費の支払い義務の法的な根拠は次に紹介するふたつの民法の条項が関係しています。

 

 

民法877条1項

直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。

 

 

上記の扶養義務とは、親や子ども等の直系血族や兄弟姉妹に経済力がない場合、経済的援助を行うということです。また、扶養義務者は、扶養する子ども等に対し、自分と同等の水準の生活が送れるように経済的援助を行う義務も負います。

離婚した夫婦は法律上、他人に戻りますが、子どもとの法律上の関係が変わることはありません。そのため、非親権者であっても、養育費を支払うというかたちで、引き続き扶養義務を果たす必要があるのです。

 

 

民法766条1項

父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。

 

民法766条では、子どものいる夫婦が離婚した場合、親権や面会交流、養育費等の取り決めは、子どもの利益を最も優先して考慮することが定められています。離婚しても子どもの利益を最優先に考える必要があるので、教育や成長に必要な養育費は支払い義務が生じると解釈することができます。

 

養育費自体を直接定めた法律はありませんが、これらの法律が根拠に、養育費の支払いの義務があるとされています。

 

養育費の不払いの原因①違反しても法律上のペナルティが無い

法律で義務と定められているのにも関わらず、養育費の不払い率が高い原因として、義務に違反したとしても直接的なペナルティを科せられないことが考えられます。

日本では、養育費を支払わずに放置したとしても、国や自治体がペナルティを科すことはありません。加えて、金融機関や貸金業者にした借金のように、滞納履歴が信用情報機関に残るということもありません。

養育費の支払いをしなくても実害が無いと判断し、支払いに応じない義務者も一定数いると考えられます。

なお、海外では、養育費を支払わなかった場合、信用情報機関に滞納額が共有されたり、公的機関の命令によって強制執行されたり、ケースによっては刑事罰が科されたりするといったペナルティがある国もあります。

そのような国に比べると、日本の養育費の制度は強制力が弱いので、滞納が起きやすいともいえるでしょう。

 

原因②夫婦の間で養育費を取り決めていない

養育費の不払いが多い理由として、そもそも養育費の取り決めをしておらず、請求していないということが考えられます。平成28年度に厚生労働省が公表した、「全国ひとり親等世帯調査」によると、子どものいる夫婦の54.2パーセントが、養育費を取り決めずに離婚を選択しています。

同調査では、男女別に養育費を取り決めなかった理由も載せられており、結果は次のとおりでした。

 

■男性が養育費の取り決めをしなかった上位3つの理由

1位.相手に支払う能力が無いと思った(22.3パーセント)

2位.相手と関わりたくない(20.5パーセント)

3位.自分の収入等で経済的に問題が無い(17.5パーセント)

 

■女性が養育費の取り決めをしなかった上位3つの理由

1位.相手と関わりたくないから(31.4パーセント)

2位.相手に支払う能力が無いと思ったから(20.8パーセント)

3位.相手に支払う意思が無いと思った(17.8パーセント)

 

上記を確認するとお分かりのとおり、男女共に「相手に関わりたくないと思ったから」「相手に支払う能力が無いと思ったから」という理由が上位に来ています。

男女の点で異なる部分は、「自分の収入等で経済的に問題が無い」と回答している方の割合に大きな違いがみられることです。

男性側では、回答の上位に位置し、17.8パーセントいますが、女性側の理由では、上位3位に入っていません。回答した割合もわずか2.8パーセントで、男性側の割合と比べてみると、大きな開きあります。大きな開きがある理由として、男性の方がフルタイムで働いていることが多く、収入が高いことが要因のひとつと考えられます。

 

子どもを養育する親に経済的な問題が無ければ、養育費をもらわなくても生活ができるので、相手方に支払ってもらう必要性は薄れるかもしれません。

しかし、相手と関わりたくない等の理由によって、経済的に困っているのにも関わらず取り決めを行わないと、お金のために子どもの進路が狭まってしまう可能性があります。離婚したい理由等によって、「関わりたくない」という心情になるのは大いに理解できますが、養育費は子どもの将来に関わってくる問題なので、現在離婚を考えている方には、ぜひ取り決めていただきたい事項です。

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養育費の滞納には事前の対策が必要

養育費の滞納に対して、泣き寝入りしかないのかといえば、そうではありません。ある一定の条件を満たせば、相手方の給料や銀行口座を差し押さえることによって、滞納分を確保することができます。

裁判所に申立てをして養育費を滞納している相手方の給料や銀行口座を差し押さえすることを強制執行といいます。強制執行を行うためには、債務名義となる特定の書面が必要です。

特定の書面を具体的にいうと、裁判所で作成してくれる調停調書や判決書の正本、公証役場で作成される公正証書等があります。

公正証書の場合、作成すれば何でもいいわけではなく、内容に「強制執行認諾文言」が盛り込まれている必要があります。強制執行認諾文言とは、文字通り「養育費の支払いの契約を破った(履行しなかった)場合は、強制執行できますよ」と言った文言のことです。

強制執行は、強い効力を持つため、夫婦同士で取り決めをした離婚協議書では行うことはできません。そのため、離婚時の話し合いで争いが無く、相手方に支払う意思があったとしても強制執行認諾文言のある公正証書を作成しておくべきです。

というのも、離婚時点で支払う意思があっても、養育費の支払いは長期にわたるので、途中で相手方が支払う意思を失くし、支払いをしなくなるという事態も考えられます。子どもの年齢が低いほど支払い期間が長くなるので、再婚等の環境の変化によって、相手方の気持ちが変わってしまうこともあり得るので、多少の手数料を支払ってでも公正証書にしておくことをおすすめします。
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まとめ

今回は養育費の支払い義務や養育費の滞納を事前に対策する方法について解説していきました。日本は、先進国のなかでも、養育費に関する整備が遅れているといわれています。2022年3月時点で、法務省や厚生労働省で養育費不払いの解消に向け、法改正案等の審議を行っています。将来的には、公的機関が不払い分を負担したり、強制執行等の要件が緩和されたりするかもしれませんが、成立するのは未だ先になりそうです。

そのため、現状できる対策は行うべきです。状況的に難しいのであれば弁護士への相談も検討してみてください。

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