夫は優しい。私のことを愛してくれるし、少し嫉妬深いところや怒りっぽいところもあるけれど、それは全部私の為だから。
そう思っていた私がDVから抜け出し、離婚が出来た経緯を説明したいと思う。
DV被害者は、逃げる意志を持てないケースがある
テレビや漫画、友達のDV体験を聞いて、「なんで逃げないんだろう」と疑問に思っていた。逃げるのは簡単だと、自分がDVを受ける前までは、軽く考えていた。でも、実際は、逃げられないよね。
私の夫の場合、暴力をふるうときは決まっている。それ以外は基本的に優しくて、頼りがいのある男性だ。そんな人だから、彼を怒らす私が悪いと思っていた。
DVから逃げ出すのはかなり困難
DVを客観視すると、「被害者がなぜ逃げないのか」と疑問を思う方が多いでしょう。しかし、DVの加害者と被害者は、支配者と被支配者の関係と似ています。
加害者は、身体、心、性的、社会的な暴力等によって、被害者のことを自分のコントロール下に置きます。
- 身体的暴力…殴る、蹴るなどの直接的な暴力
- 心の暴力(精神的暴力)…言葉の暴力で、被害者の自尊心を傷つけていき自我を無くす
- 性的暴力…性差を利用し、レイプしたり、行為中に相手の嫌がる行為を行い、マウンティングを取る
- 社会的暴力…被害者の行動を監視し、加害者に都合の悪い交友関係や情報を遮断する
DVは、可視化できる身体的暴力に焦点が置かれがちです。しかし、日常的に自己否定され、自分の身体を性道具のように扱われ、人間関係や情報を監視、統制等を受けていた場合、「逃げる」という判断を下せるでしょうか。
被害者は、加害者からある種恐怖政治によって支配されています。支配者から「逃げる」という行為は、「反抗する」という意味をはらむので、なかなか実行に移すことが出来ないのです。
また、加害者は苛烈な手段を用いて支配する一方で、時折被害者に優しさを見せ、ゆがんだ安心感を植え付けます。自分(被害者)を救ってくれる人は、加害者しかいないと思わせることによって、逃げられないようにするのです。
このように加害者と被害者が互いに依存し合っている状態を共依存と言います。
共依存に陥っているDV被害者は、一度逃げ出したとしても、結局加害者の元に戻ってしまうというケースは少なくないのです。
夫の行為に違和感を覚えた場合の対処法
私は、日記をつける習慣がある。夫の行為がおかしいのではないかと感じたのは、その日記を読み返したからだ。
はじめに暴力を受けたとき、少なからず私は夫に反発していた。けれども、時間が経つうちに、だんだん私が悪いと思えてきた。殴られる私が悪くて、夫は私が、悪いことをしなければ普通に優しい。優しい人を怒らせる自分に非がある。その証拠に殴ったり、首を絞めたりしても、しばらくたったら、謝ってくれる。「ごめんね」って謝ってくれる。「でも君も悪いんだよ」と言う。
日記の内容は、自分が書いてるのに、書いてないような違和感を覚えた。でも、私は悪いことをしているのか。繰り返し夫は「私が悪い」と言ってきたが、私は何も悪いことをしていない。仮にしていたとしても、何度も殴られたり蹴られたりする理由にはならない。
過去の自分が書いた日記をきっかけに、暴力を受けていることがおかしいことだと自覚できた。
DVは不法行為であり犯罪行為になりえる
民法770条には、裁判で離婚を請求できる理由が記載されています。下記は有責行為や法定離婚事由と呼ばれることもあります。
- 不貞行為
- 悪意の遺棄
- 3年以上生死不明
- 配偶者が強度の精神病で、その回復を見込めない場合
- その他婚姻を継続し難い重大な事由
DVは、上記の5に当てはまります。つまりDV被害者は、加害者に対し、離婚訴訟を起こせる資格を持っているのです。
一方で、どんな理由であれ、暴力は傷害や暴行等の罪に問われることがあります。その罪が成立すれば、犯罪になりえるのです。
配偶者が犯罪を行った場合、5のその他婚姻を継続し難い重大な事由に該当する可能性があります。
このように、暴力は不法行為であり、犯罪行為にもなりえるのです。ただし、これらの行為への訴えを起こすためには、被害者側の自覚が必要です。
繰り返しになりますが、日常的に暴力を振われることは、当たり前ではなく、「異常」なことです。自身が配偶者の行動に対し違和感を覚えたときには、自分自身の直感を信じ、まずは誰かに相談してください。
友人や両親に相談しづらい状況であるなら、婦人相談所や警察に相談しましょう。
DVには真正面から戦わず別居する
夫からDVを受けていた事実を、すぐに受け止めることが出来なかった。でも、暴力を受けているのは事実だ。ネットで、「DV」について調べてみた。すると、身体だけではなく精神・性・社会的暴力もDVに範ちゅうに入るということを知った。
自覚しつつも、「夫を信じたい」気持ちと、夫の行動が異常であるという事実が頭のなかでせめぎあう。でも、結局、「もう耐えられない」という気持ちが強くなった。もう無理だと思ったのだ。
夫から実家や友人への連絡等は制限されていた。連絡だけじゃなく、着信履歴、LINE、Webの閲覧履歴もチェックを受けていた。
夫との約束を破るとひどく殴られるので、DVセンターの番号をWebで検索してメモとった。履歴はもちろん削除した。「コンビニに買い物に行く」といって、近くにある公衆電話で相談することにした。
すると、相談員が出てくれ、「あなたが受けているのはDVだ。別居できる環境があるならすぐさま行動に移した方がいい」と言ってくれた。救われたと思った。本当に。自意識過剰なんじゃないかって怖かったから。本当に。認められたとたん、涙が出た。びっくりするくらい泣いた。
その後、公衆電話で実家に電話すると、母が出た。かいつまんで、自分の状況を話すと、「すぐ戻ってきなさい」と泣かれた。さっきたくさん泣いたのにまた涙が出てきた。
お財布には1000円ちょっとしかなく、実家に行く交通費には足りなかったけど、「迎えに行くから」と言われ、料金的に駅でぎりぎり行ける範囲を確認し、公衆電話で行先を伝えた。
駅に着くと両親が改札で待ってくれていました。私の見た目がかなりやつれていたようで、両親は、「こんなになるまで我慢して…頑張ったね」と言ってくれ、頭を撫ぜてくれた。
悪い夢から解放された気分。うまく息が吸えないくらい、やっぱり泣いた。
DVを受けた場合には、身の安全を確保するために別居をするべき
配偶者のDVを自覚した後行うべきことは、「相談」と「別居先を決めること」です。
相談先は、両親や友人の他、以下のような機関等に相談することが可能です。
【相談先】
民間機関
またDVする配偶者から別居する場合、以下のような注意が必要です。
①転居先は絶対に教えない
②連絡先を教えない
③警察や配偶者暴力相談センターに相談しておく
④病院など利用する際は健康保険の切り替えをしておく
⑤できる限り証拠保全をしておくこと
①転居先は絶対に教えない
DV加害者は、被害者に異常な執着心を持っていることが多いです。自分の居所を知られないためにも、別居先を伝える人は最小限に抑えた方が良いでしょう。また、実家や友人宅などある程度予想しやすい別居先は、場合によって突き止められ、危険になることもあります。身の危険を感じる場合には、DVシェルターなどの一時保護を検討してみてください。
②連絡先を教えない
DV加害者に対し、連絡先は教えないでください。また、SNS上での位置情報を特定できるような投稿は控えましょう。スマホや携帯電話の位置情報サービスも切っておいた方が良いかもしれません。
③警察や配偶者暴力相談センターに相談しておく
別居後、身の危険を感じる場合には、保護命令をスムーズに出来るよう、事前に警察や配偶者暴力相談センターに連絡をしておくといいと思います。
警察に相談する際は、生活安全課に相談すると良いでしょう。
④病院など利用する際は国民健康保険に切り替えをしておく
配偶者の厚生保険に加入していた場合、診療記録が相手方に届いてしまい、転居先を知られてしまう可能性があります。そのため、国民健康保険等に切り替えておいた方が良いでしょう。なお、切り替え時、配偶者暴力相談センターで証明書の発行をしてもらう手続きが必要になると思いますので、準備しておくとよいでしょう。
⑤できる限り証拠保全をしておくこと
DVを受けたことを証明するときに必要になるのが、DVを受けたとされる証拠です。③で紹介した、保護命令は被害者が裁判所へ申し立てることになるのですが、その際の提出書類として必要になります。
また、離婚が調停や裁判になった場合、自身の主張の正当性を高めるためにも証拠が必要になります。
証拠として有用とされるのが以下のようなものになります。
- DV行為を記した日付入りの日記やメモ
- 配偶者暴力相談センターや警察への相談記録
- 受傷した箇所の写真
- DV行為によってけがや精神疾患を患ったと記載されている診断書
- DV行為の動画や音声データ
- 第三者によるDVの証言
上記が無ければ、DVが認められないというわけではありませんが、証拠はあった方が有利にことを進められる可能性が高くなります。
別居前に、弁護士等に相談することができるのであれば、持ち出した方が良い証拠等を聞いてみるのも良いと思います。
離婚成立
別居後、しばらくは実家に脅迫めいた電話が頻繁にかかってきた。親が私はいないと言っても、「そこにいるのはわかってる」とか「戻ってこないと一家全員殺してやる」といった脅迫めいた言葉が、聞こえた。
また、実家に押し掛けてきたことも一度や二度のことではなく、「○○に会わせろ!」とわめいたり、実家の家のドアを思い切りたたいてきたりした。
家族に迷惑がかかるのが怖くって、何度夫の元に戻ろうと思ったかわからない。けど、その度両親は、「こんな男の元には戻せない」といって、警察やDVセンターなどに相談する際、同席してくれた。
着の身着のまま出てきたので、証拠書類が無い。しかし、別居後の脅迫めいた言葉は、動画として撮影した。私も両親も身の危険を覚えたので、弁護士に相談し、裁判所に保護命令を申し立てた。申立ては結局、仮処分の段階で相手方からの和解の申し入れがあり、和解条項を取り交わし、いったんは手打ちとなった。
その後しばらくして、夫より「慰謝料や財産分与なしなら離婚してやる」と連絡がきた。お金のことは迷っていたけれど、一刻も早く彼と別れたかった私は、彼の提示する条件をのみ、離婚した。
離婚後、たびたび実家に「戻ってこい」と連絡が来ている。けれど、もう応じないつもりだ。夫にやられたことが、突然よみがえってきて苦しくなる時もある。でも、以前と違って私には支えてくれる両親や友人がいると思うと、乗り越えられる気がする。
保護命令について
前章で少し触れた保護命令についてもう少し詳しく解説していきたいと思います。保護命令とは、DVの被害者が、配偶者から暴力や命の危険にかかわる脅迫があった場合に利用できる制度です。
保護命令が発令された場合、ある一定期間のあいだ、以下のような加害者の行動を制限することが出来ます。
①面会を要求する
②行動を監視していると思わせるようなことを告げたり、知り得る状態(※1)に置く行為
③著しく品位に欠ける言動、乱暴な言動
④無言電話や、緊急時以外の過剰な電話、FAX、メール等を送る行為
⑤緊急時以外に22時から6時までの間に電話やFAX、メールを送る行為
⑥汚物や動物の死体といった他人が不快、嫌悪感を覚えるものを送りつけたり、それを知り得る状態に置く行為
⑦名誉を傷つけることを言ったり、知り得る状態に置く行為
⑧性的羞恥心を害する文書や画像等の送付をしたり、知り得る状態に置く行為
※1知り得る状態…被害者等が簡単に知ることのできる状態のことを指します。
保護命令中に上記の約束を破ると、1年以下の懲役、または100万円以下の罰金が、加害者に科せられることとなります。
保護命令は、DV被害者にとってとても有効な手段です。しかしながら、保護命令を発令させるのは結構ハードルが高く、おもに以下のような要件があります。
- 保護命令は申立て人を被害者とし、管轄の地方裁判所に申請する必要がある
- 配偶者暴力相談センター、警察(生活安全課)等に事前に相談する必要がある
- DVの証拠書類を添付する必要がある
- 夫婦関係にあるときの身体的暴力が対象となり、夫婦関係(※2)の解消後の暴力行為は対象とならない
※2夫婦関係…ここでの夫婦関係とは、事実婚の方も含みます。
上記の他にも、さまざま条件がある可能性がありますので、独力で行うのはかなり難しいかもしれません。
保護命令を考えている方は、早い段階で、配偶者暴力相談センター等に相談したり、法テラス等を用いて、弁護士に依頼した方が良いかもしれません。
最近では、DV相談+という公的サービスもあり、Web内のチャットで相談することも可能です。

まとめ
今回は、あるDV体験者のお話を元に様々なDVに関するお話をしてきました。
DVの一番恐ろしいところは、本人の自覚が薄いところです。そのため、少しでも違和感を覚えた時には、周囲や公的機関に相談してみることが大切です。
最近では、チャットツール等を利用した相談方法もありますので、一人で悩まず、まずは一度連絡をしてみることが大切です。
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