【弁護士監修】うつ病の配偶者と離婚するときの条件は?親権や財産分与についても解説

うつ病になると、脳のエネルギーが枯渇し、楽しいと感じられなくなってしまったり、何かに対して情熱を持つことが難しくなってしまったりすることがあります。

配偶者がうつ病になったとき、多くの方は「良くなるまで支えよう」と考えるでしょう。

しかし、配偶者のうつ状態がひどかったり、長期間に及んだりした場合、自分の人生を考えて離婚を考えることもあると思います。

今回はうつ病の配偶者と離婚するときの条件や、親権、財産分与について解説していきたいと思います。

 

うつ病の配偶者との離婚を考える前に知っておくべきこと

配偶者がうつ病になったからといって、「もう駄目。離婚する」と即座に判断できる方は少ないと思います。

うつ病そのものより、配偶者がうつ病になったことによってこれまでの夫婦生活や、夫婦の関係が崩れてしまったことを理由に離婚を検討する方がほとんどでしょう。

ひとくちにうつ病といってもさまざまな症状がありますが、「○○だからうつ病」という明確な診断基準がないといわれています。

ただし症状に何も特徴がないわけではなく大きく次の4つに分けることができます。

 

■メランコリー型うつ

仕事や家族としての役割に責任感を持って行うあまり、エネルギーが枯渇し、「嬉しい」や「楽しい」という感情が感じられなくなってしまうようなうつ状態をいいます。

■非定型うつ

良いことに「嬉しい」や「楽しい」と感じることができる一方で、他人からの評価や批判を強く感じるようになるうつ病で、現代うつ病といわれることもあります。

■季節型うつ

特定の季節にうつ症状を発症することをいいます。

どの季節にも起こり得ますが、うつ病の発症には日照時間が関係あるとされており、日の短い冬に発症するケースが多いといわれています。

■産後うつ

産後は、出産の疲労やホルモンバランスが崩れる一方で、授乳など時間に関係なく育児をしなければならない状況によって発症するうつ病をいいます。

配偶者のうつ病が夫婦に与える影響

配偶者のうつ病が離婚に与える影響としては、夫婦関係と生活環境が挙げられます。

うつ病は再発することが多いので、繰り返し配偶者のケアを行うと、あなた自身の精神も疲弊していきます。

また、うつ病の類型として「非定型」というものがありますが、自分が楽しいと思うときや嬉しいと思うときなどにはうつ症状が出ないため、「嫌なことから逃げているだけじゃないか」と感じてしまい、夫婦の信頼関係が崩れることがあります。

うつ症状の中には、他人に対して攻撃的になったり、気力がなくなるため掃除や洗濯、料理などの家事ができなくなったりすることがあります。

これらの症状が続くと、一緒に暮らす家族にとって過酷であるため、離婚を考えても無理はありません。

責任感が強い方の中には、うつ病になった夫や妻のサポートが嫌になって離婚を考えるなんて「自分はなんて最低なんだろう」と強い自己嫌悪を覚え、離婚を考えても結局いいだせない方もいらっしゃいます。

配偶者のうつ病が家族に与える影響は、うつ病を発症した本人だけでなく、その夫や妻、子どもにも及ぶことがあります。

うつ病の配偶者と離婚を進めるときの法的条件と手続き

うつ病の配偶者と離婚したいと考えたとき、いきなり「じゃあ裁判で離婚するかどうか決めよう」となるわけではありません。

理由がうつ病に限らず、「離婚したい」と思ったらまずは当事者同士で離婚の話し合いを行います

当事者同士の話し合いで離婚の同意が取れれば、離婚理由関係なく、離婚届を出せば夫婦関係は終わります。

とはいえ、離婚の話し合いは「離婚の同意」以外にもさまざまな離婚に関する約束をしなければならず、離婚の成立を急ぐあまり、適当な約束をしてしまうと後々トラブルになるので注意が必要です。

 

うつ病の配偶者と離婚するときのステップと法的な離婚事由が必要なとき

うつ病の配偶者と離婚を考えた場合、次のような段階を踏んで離婚の成立を目指します。

 

STEP①:当事者同士の話し合いで離婚を目指す(協議離婚)

当事者の夫婦2人の話し合いで離婚の同意を目指します。

協議離婚は、当事者同士だけの話し合いで離婚するというイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、本人に代わり弁護士が離婚条件などの交渉を行うことも可能です。

 

STEP②家庭裁判所を仲裁役に話し合う(調停離婚)

STEP①でまとまらなかった場合、家庭裁判所に離婚調停を申し立てて話し合って離婚を目指すことになります。

STEP③:裁判を起こして離婚する(裁判離婚)

STEP②の離婚調停を経て解決しない場合、最終的に裁判で離婚の可否を問うことになります。なお、裁判を起こせば離婚できるわけでなく、敗訴することもあります。

 

配偶者のうつ病を理由に離婚する場合、話し合いで解決できるときには、「配偶者のうつ病が法的な離婚事由にあたるかどうか」が必ずしも必要になるわけではありません

「話し合いで解決できるとき」とはSTEP①の協議離婚、STEP②の調停離婚で成立することをいいます。

法的な離婚事由が必要になるのは、STEP③の裁判離婚のときです。

日本の離婚制度は「当事者同士の話し合いで解決すべき」という考えから、離婚の裁判を起こすには次の条件があります。

【離婚裁判を起こせる条件】

  • 離婚調停が不成立に終わったこと
  • 法的な離婚事由に当てはまること

離婚裁判は、基本的に上記2つの条件を満たす必要があります。

法的な離婚事由とは、民法という法律で定めてある「裁判を起こすことができる理由」のことをいい、次のような行為です。

【法的な離婚事由】

  • 不貞行為(配偶者以外の異性と肉体関係を持つこと)
  • 悪意の遺棄
  • 3年以上生死不明
  • 配偶者が強度の精神病で回復が見込めない場合
  • その他婚姻を継続し難い重大な事由

うつ病を理由に裁判で離婚することを考えた場合、基本的に「配偶者が強度の精神病で回復が見込めない場合」にあてはまることになるかと思います。

裁判で離婚が認められるかどうかの重要なポイントとして、うつ症状の程度が挙げられます。

離婚が認められる程度のうつ病は、その症状が重度であること、またその状態から回復できる見込みがないことを証明する必要があります。

そのため、うつ病であっても回復の余地があったり、症状が軽度であるとみなされたりといった場合には離婚が認められない可能性が高いです。

配偶者のうつ症状が重度で回復の見込みがなくても離婚が認められないこともある

配偶者のうつ病を理由に裁判で離婚が認められるためには、次の2つの条件を満たす必要があります。

  • うつ病の症状が「寝たきり」状態など重度であること
  • 重度のうつ状態から回復が見込めないこと

これらの条件を満たせば、必ず離婚できると思う方もいらっしゃるかもしれません。

しかし実際は、条件を満たしても離婚が認められないケースもあります。

回復の見込みがない重度のうつ病状態では、離婚後生活費を稼ぐというような行為がほぼ不可能に近いです。

離婚を認めてしまうと困窮した生活を送ることが見込まれるため、離婚後の継続的な金銭面のサポートを約束するなどしないと離婚が認められない傾向にあります。

実際に1958年の最高裁の下した判決(※)でも、回復の見込みがない精神病を理由に離婚を成立するには、精神病にかかったひとの離婚後の療養、生活に関してできるだけ具体的な話し合いを行い、目途が経っている状況でないと離婚が認めるべきではないと判断されました。

※裁判年月日:昭和33年7月25日/事件番号:昭和28(オ)1389号

民法七七〇条一項四号と同条二項は、単に夫婦の一方が不治の精神病にかかつた一事をもつて直ちに離婚の請求を理由ありとするものと解すべきでなく、たとえかかる場合においても、諸般の事情を考慮し、病者の今後の療養、生活等についてできるかぎりの具体的方途を講じ、ある程度において、前途に、その方途の見込のついた上でなければ、ただちに婚姻関係を廃絶することは不相当と認めて、離婚の請求は許さないとされた事例。

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うつ病の配偶者と離婚するときに親権はどうなるの?

うつ病の配偶者との離婚を考えたとき、子どもがいるときには親権を取得したいと考える方が多いのではないでしょうか。

親権取得と配偶者のうつ病にかかわりがあるのか考えていきたいと思います。

親権を取得するためには『健康状態』が重要な要素になるケースもある

親権は基本的に夫婦の話し合いによって決まります。

配偶者がうつ病であっても離婚の話し合いで決められるのであれば特別な手続きを踏むことなく夫婦の合意によって親権者を決めることができます。

一方で配偶者のうつ病が重度で話し合いができなかったり、話し合いができても相手が親権を得たいと主張したりといった場合には、離婚調停、審判や裁判で決めることになります。

離婚調停や裁判などで親権者を決める場合、重要になるのが親権者の判断基準です。

裁判所は親権者の決定などを行う際「どちらの親と暮らした方が子どもの利益となるか」という観点で考えます。

利益というとお金のイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、ここでいう利益はお金に限らず、要はどちらの親と暮らした方が子どもの幸せになるかということです。

子どもの幸せをはかる判断基準は主に次のようなものがあります。

  • 経済力
  • 離婚後の養育環境
  • 親の健康状態
  • 養育実績
  • 子どもへの愛情

親権取得を目指すにあたり、重要となるのが健康状態です。

今までの養育実績や離婚後の養育環境など大きく考慮されるポイントは様々ありますが、今後子どもを育てていくための大前提として心身ともに健康であることが挙げられます。

とはいえ裁判所は、「配偶者がうつ病だから」という理由で直ちに「親権者として不適当」と考えるわけではありません。

「うつ病であるが日常生活を送るには問題ない」とみなされれば、うつ病の配偶者が親権を得ることは十分に考えられます。

一方で、配偶者のうつ症状が重く精神的に不安定であると判断されたときには、あなたが親権を取得できる可能性が高まります。

うつ病の配偶者と離婚するときの財産分与

離婚する場合に必ず行うべきこととして、財産分与があります。

財産分与とは、結婚してから離婚するまでに夫婦が築いた財産を分け合うことをいいます。

うつ病の配偶者と離婚するときと、他の理由で離婚する場合、違いはあるのでしょうか。

財産分与の基本的な考え方と手続き

財産分与の対象となる夫婦の財産は、相続や個人的に贈与されたものをのぞいたすべてで名義も関係ありません。

また、財産というと「プラスのもの」と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、住宅ローンや自動車ローン、生活のために借り入れした借金なども対象になります。

夫婦のプラスの財産からマイナスの財産を差し引いて残った財産を分け合うというのが財産分与の考え方です。

どのように財産を分配するかについては、その財産を築いた貢献度によります。

貢献度は単に「年収が高い」というだけでなく、家事や育児を行うことも貢献しているとみなされます。

そのため、夫婦の一方の収入が非常に高額などの特別なケースをのぞき、夫婦2人半分ずつ分けることが基本です。

とはいえ財産には不動産や自動車、家具など公平に分けることができないものも含まれるので、夫婦で話し合って、何の財産を取得するかを決めることになります。

うつ病の配偶者と離婚する場合であっても、話し合いができる状態ならば夫婦で話し合って財産分与を行うことになるでしょう。

なお、相手が弁護士に財産分与の交渉を依頼した場合には、弁護士が相手の代理人となってあなたと交渉することになります。

うつ病を理由に離婚する場合扶養的財産分与が認められることもある

財産分与は基本的に離婚するとき清算するので、離婚後も継続的に支払われるお金ではありません。

離婚が成立した時点で、夫婦が互いに負っていた扶養義務(※)がなくなるので、離婚後の生活はそれぞれ自分でどうにかする必要があります。

しかし、配偶者がうつ病の場合、例外的に扶養的財産分与というものが認められる可能性があります

扶養的財産分与とは、離婚後、病気などで自立が難しく生活が困窮することが想定されたときに、経済的に余裕がある者が一定の範囲の期間、金銭的な援助のことをいいます。

配偶者のうつ症状の度合いによっては、離婚後も金銭的な援助を行う可能性があることを覚えておきましょう。

※婚姻中夫婦は双方に生活を送るため必要な金銭的なサポートを行う義務があります。離婚すると原則として扶養義務はなくなります。なお子どもに関しては離婚してもなくなりません。

まとめ

今回はうつ病を発症した配偶者との離婚について解説していきました。

うつ病の配偶者との離婚は、夫婦の状況、うつ症状の度合いによって難易度が大きく違います。

また親権を取得したいなど離婚条件によってとるべき対応が異なることもあるので、困ったときには一度弁護士に相談することを検討してみてください。

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