夫婦が離婚を行うとき、どんな夫婦でも必ず取り決めすべきことのひとつとして、財産分与があります。
財産分与はこれまで夫婦として築き上げた共有財産をそれぞれ分けることを指します。
共有財産が明確に分けられる金銭であればいいのですが、分けることのできない不動産などの財産がある場合、トラブルに発展する可能性が高くなります。
今回は、一組の夫婦の相談事例をもとに、共有財産に不動産が含まれていた場合の対処法について確認していきましょう。
共有財産に共有名義のマンションがあった場合どうすればいいの
主人公:史子(ふみこ)37歳 年収:500万円
夫:士道(しどう)38歳 年収:700万円
夫の士道とは、私が27歳のときに結婚しました。
お互い、結婚式にも新婚旅行にも興味がなかったので、独身時代それぞれが貯めた700万円(内訳は夫が500万円、私が200万円)と士道と私の両親がくれた300万円(夫の両親が200万円、私の両親が100万円)を頭金として、3000万円の中古マンションを購入しました。
残りの2000万円は10年返済の住宅ローンを組みました。
幸いなことにお互い収入があがったので、2年繰り上げで35歳のときにローンを完済しました。
夫婦仲は可もなく不可もなく…というところでしたが、ちょうどローンを完済したあたりから、子どもがなかなかできないことで言い争いが増えました。
出産は年齢を重ねる分だけリスクも増しますし、無事生まれてきたとしても、育児も体力がいりますし大変になることは想像できます。
そのため子どもを産みたいのであれば、35歳の今動かないとだめだと感じました。
行動してみてできなかったり、お互いの体質的に妊娠が難しかったりで、子どもを授かることができないのは仕方がないことだと思います。
妊娠するようなことをしないで、諦めるのは嫌だったので、夫に子どもが欲しいことを伝えました。
私の意思を伝えると、当初夫は妊活に同意してくれました。
しかし、いざそういう雰囲気になると、「仕事で疲れているから」、「妊活メインを押し出されると勃つものも勃たない」、「がっつかれると逆に冷める」などなど…。
なるべくシチュエーションとか、作業っぽくならないように配慮はしていたのですが、夫のやる気スイッチを押すことができませんでした。
妊活に対するやる気の違いは、徐々に日常生活にも支障が出てきました。
夫は私のことを性欲が高ぶっている女と考えるようになり、私は私で、誘いに全く乗らない最低男と思いました。
お互いにストレスフルな状態の夫婦が仲良く生活できるはずもなく、結局妊活をはじめて2年で、「これ以上相手のことが嫌いになりたくないから」とお互い同意のうえ離婚する方向で話し合いを始めました。
変な言い方かもしれませんが、私たち夫婦はお互いに不満をもっているものの、「顔を見たくないほど憎い」という状態ではありませんでした。
だから預貯金の取り分や、共用している自動車は誰が所有するのかなどについては、話し合いで解決することできました。
しかし、中古マンションについてはお互い話し合いが平行線です。
結婚して10年。
私としては、マンションに愛着もありますが、新しい生活を見据えて売却してしまった方が良いのではないかと思っています。
しかし、夫は「マンションに住み続けたい」といっています。
また、「そもそも頭金やローンの返済は多くだしたのだから、家に関する発言権は自分の方が強い。というか結婚前の貯金とか親からもらった金って財産分与の対象じゃないじゃん。その分は別途支払ってもらう」と主張してきます。
結婚前の貯金や親から援助してもらったお金を捻出したのは私も一緒です。そもそも権利自体は、夫と私2分の1ずつ持っているので、こんな主張は通らないと思っているのですが、実際のところどうなんでしょうか。
不毛な争いを続けたくないので、自分の権利分だけ売却して現金に換えてしまいたいと考えているのですがそんなことできるのでしょうか。
弁護士の見解
夫婦の共有財産に不動産が含まれている場合、ケーキやパイのように切り分けられるものではないので、今回の史子さんのケースのように方向性が合わないと争いになってしまう可能性があります。
どのように解決していけばいいのでしょうか。
マンションの頭金の一部は特有財産になるのか
財産分与は、結婚してから離婚、または別居する日までに夫婦が築いた共有財産を貢献度に応じて分けることをいいます。
相続や贈与によって取得した財産、また結婚前に築いた財産は特有財産といって、基本的に財産分与の対象とはなりません。
ただし、今回のマンションのような場合には、特有財産を主張するのであれば、「結婚前の貯金から支払った」、「両親から〇万円贈与を受けた」ということを言い出した側が立証する必要があります。
まず、マンションの費用の内訳を確認しましょう。
- 史子さんの結婚前の貯金:200万円
- 士道さんの結婚前の貯金:500万円
- 史子さんの両親からの贈与:100万円
- 士道さんの両親からの贈与:200万円
- 住宅ローンで借りたお金(完済済):2000万円
住宅ローンで借りた2000万円は、返済額の負担が士道さんに大きくても、夫婦が協力して築いた共有財産から捻出したものなので、差額分の支払いを求められても応じなくて良いです。
結婚前の貯金や親族などからの贈与については特有財産なので夫婦の共有財産として認められないとお伝えしましたが、士道さんの主張が通るには「結婚前の貯金や親からの贈与である」ということを証明する必要があります。
例えば、ご自身の口座から住宅ローンを組んだ金融機関に払い込みしているということがわかる証明書や、ご両親と結んだ贈与契約書等が挙げられます。
特有財産である証拠がない場合、マンションはすべて共有財産としてカウントされます。
また、士道さんの両親が「結婚祝い」といった名目で200万円を贈与していた場合、士道さん個人に対しての贈与ではなく、夫婦に対して贈与されたものだと考えられるので共有財産にカウントされると思われます。
史子さんは士道さんが単に主張しているだけなのか、それとも何か証拠書類を持っているのか確認したほうが良いかもしれません。
マンションに関する決定権は士道さんの方が強いのか
マンションの所有権は、史子さんと士道さん2分の1ずつで登記されています。
「頭金を多く支払った」、「ローンの支払いの負担額は史子さんよりも高かった」と士道さんが主張したとしても、登記簿に2分の1ずつと記載されている以上、マンションの処分などに関する決定権がどちらの方が強いということはありません。
仮に、マンションの持ち分が士道さんの割合の方が高かったとしても、共有財産は名義によらず夫婦ふたりの財産になるので、士道さんの主張は通らないと考えて良いと思います。
史子さんが所有している持ち分を売却することは可能なのか
マンションや持ち家などの不動産の所有者が複数いる場合、売却したり、誰かに譲渡したり、大幅な増改築を行いたかったりするときには、登記簿に載っている所有者全員の同意が無ければ行うことはできません。
史子さんはマンションの売却を望んでいますが、士道さんが同意しない限り難しいといって良いでしょう。
また史子さんは、マンションの自分の持ち分を売却したいともお考えかもしれませんが、買い叩かれる可能性が高いのでおすすめできません。
不動産の全部ではなく、自分の持ち分だけを売却することは士道さんの同意を得なくても行えます。
しかし、不動産の権利は「どこからどこまでが史子さんのもの」と切り分けることができません。
持ち分を買い取ったとしても利用用途がない、または大幅に制限されることが予想されるので、持ち分を買い取る業者を探すのは困難でしょう。
よしんば、買い取り業者が見つかったとして、普通に不動産を売却するよりもかなり低い買い取り金額になると予想されます。
そのため、史子さんは士道さんにマンションの売却を同意してもらえるよう説得するか、マンションを譲る代わりに、預貯金などの財産を多く分与してもらうなどの方法を検討してみると良いかもしれません。
【共有財産はお金だけじゃない】離婚時にもめる可能性のある財産分与
まとめ
今回は、共有財産の中に不動産が含まれていた場合の財産分与について相談事例を交え解説していきました。
財産分与は、夫婦の意見が折り合わずトラブルになりやすい問題です。
当事者同士ですと、合理的な話し合いができず離婚が成立するまでの期間が長くなったり、争いが大きくなってしまうケースもありますので、お悩みの方は一度弁護士への相談を検討してみると良いでしょう。
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