離婚は必ずしも相手の行動が原因でトラブルに発展するわけではありません。
自身が離婚したくなくても、相手方から離婚を切り出される可能性もあるのです。
今回は、離婚の原因を作ってしまった場合、どんなトラブルが起こるのか考えていきたいと思います。
有責行為とは?有責配偶者となる行動を確認しよう
インターネット等で離婚について検索すると頻繁に目にすることのある「有責行為」。
有責行為とは、簡単にいうと法律で定められている離婚事由に該当する言動のことを指します。
夫婦の一方が有責行為をした場合、そのひとのことを有責配偶者と呼びます。
法律で定められている離婚事由は以下の通りです。
- 不貞行為
- 悪意の遺棄
- 3年以上生死不明
- 配偶者が強度の精神病で回復を見込めない場合
- その他婚姻を継続し難い重大な事由
※民法770条1項を参照
これらの事由に当てはまった場合、基本的に「夫婦の関係が事実上破綻している」とみなされます。
具体的にどのような行為や状態を指すのかそれぞれ確認していきましょう。
不貞行為
不貞行為とは、配偶者以外の異性と性的な関係を結ぶことをいいます。
法律上明記されているわけではありませんが、夫婦になると互いに貞操を守る義務が生じます。
簡単にいうと、結婚して夫婦になったら、夫婦以外の異性と性的な行為をしてはいけませんよという義務です。
自己の自由意思に基づき、配偶者以外の異性と性的な関係を結んだ場合には、不貞行為となります。
つまり、自分の意思関係なく脅迫される等で性行為を強要された場合は、貞操義務違反ではないということです。
不貞行為としてみなされる行為は、挿入することと考える方も少なくないのではないでしょうか。
しかし、実際には挿入行為がなかったとしても、次のような行為をすると性的関係にあると推認される恐れがあります。
■ラブホテルに行く
ラブホテルは、一般のホテルとは異なり利用用途が「性行為」に限定されています。
そのため、配偶者以外の異性とラブホテルで休憩・宿泊等の行為をした場合には、不貞行為として推認されます。
■配偶者以外の異性とふたりきりで旅行に行く
配偶者以外の異性とふたりきりで旅行に行った場合、男女間で旅行に行くほど親密な関係にあることから、不貞行為があったと推認される可能性があります。
■口や手等を使って相手の性器を触る前戯と呼ばれる行為
実際に挿入行為を行っていなくても、口や手等を使って性器に触れる行為は、不貞行為に当たる可能性が高いです。
実際に性的行為に及んでいなくても、状況として十分推認できる場合には、不貞行為とみなされる可能性が高いので十分注意しましょう。
悪意の遺棄
夫婦には、同居・協力・扶助の義務があります。
端的にいえば、「夫婦になったからには同居して、生活が成り立つように双方が助け合いながら夫婦生活を営んでいきましょう」ということです。
自身が夫婦の義務を果たさないと夫婦関係が壊れてしまうことが十分予想できるのに、義務を果たさない場合、悪意の遺棄に問われる可能性があります。
夫婦の義務違反といっても、なかなかイメージがつきにくいかもしれません。
具体的には以下のような行動が考えられます。
■理由もなく勝手に家を出ていき別居する
配偶者の許可なしに勝手に家を出ていき、別居することは夫婦の同居義務に反し、悪意の遺棄とみなされる可能性があります。
ただし、相手方のDVやモラルハラスメント等の理由によって別居した場合には、悪意の遺棄とはみなされません。
また、仕事上の都合で単身赴任する場合も、やむを得ない事情ですので悪意の遺棄にはあたりません。
悪意の遺棄とみなされるのは、正当性もない理由で、相手方の了承なしに別居する場合に限ります。
■給料を一切家計にいれない
給料を一切家計に入れないことは、状況によって悪意の遺棄にあたる可能性があります。
自分の給料なしでは、夫婦生活が成り立たないとわかっているのにもかかわらず、家計にお金を入れないと、相手方から悪意の遺棄を理由に離婚を切り出されるおそれがあります。
なお、相手方が家計に給料を入れなくても、ご自身の給料だけで夫婦生活が十分に成り立つ場合には悪意の遺棄とはみなされにくいです。
■理由もなく仕事を辞め、働かない
理由もなく配偶者に無断で仕事を辞め、健康なのに働かない場合、悪意の遺棄としてみなされる可能性が高いです。
特に夫婦双方が働くことによって家計を維持していた場合には、夫婦の協力・扶助義務違反に問われる可能性が高くなります。
ただし働いていなくとも、家事や育児を担っていた場合には、家事や育児をすることも夫婦関係を維持する大切な要素なので、悪意の遺棄とはいえません。
別居や給料を家計に入れないこと、働かないことが必ずしも悪意の遺棄になるわけではないので、配偶者から「悪意の遺棄」を理由に離婚を切りだされたとしても、相手の言うままに認めることは避け、しっかり話し合いをし、相手が具体的にどのような不満を持っているのかを知ることが大切です。
3年以上生死不明
配偶者が3年以上生死不明の場合、実質上夫婦関係がないものとして、離婚することが可能です。
ただし、単に連絡を取り合っていない別居の状態ではなく、捜索届を提出する等して、本当に居所がつかめず、連絡が取り合えない状態でなければ認められません。
配偶者が強度の精神病で回復を見込めない場合
配偶者が強度の精神病を患っており、その状態から回復が見込めない場合には、離婚する理由になりえます。
具体例を挙げると、重度の統合失調症やアルツハイマ―等の認知障害を負い、夫婦間で完全に意思疎通が取れない状態が考えられます。
治療すれば回復を見込めるアルコール依存症等では、認められない可能性が高いです。
また、回復を見込めない状態であったとしても、離婚後に経済的に困窮が見込まれる場合には、たとえ回復が期待できない精神病であっても離婚が認められる可能性は低いです。
その他婚姻を継続し難い重大な事由
不貞行為や悪意の遺棄、3年以上生死不明、回復を見込めない強度の精神病以外の理由で、夫婦関係の継続が難しい事由のことを指します。
具体的にいうと、DVや虐待、モラハラ等が考えられます。
なお、「そのほか婚姻を継続し難い重大な事由」については、双方に有責行為がない場合でもあてはまるケースがあります。
具体的例を挙げると、夫婦が単身赴任等の特別な事情がなく長期間別居をしており、事実上夫婦関係が破綻しているような場合です。
一般的に双方に有責行為がない場合には、裁判で離婚の可否を問うことができないと思われがちですが、夫婦が長期間別居している場合、法律上の離婚事由に当てはまる可能性があります。
有責配偶者になった場合、必ず離婚に応じなければいけないのか
不貞行為やモラハラ等を理由に有責配偶者となり、相手方に離婚を切り出された場合、必ず離婚に応じなければいけないのかといわれればそういうわけではありません。
相手の同意を得ることなく一方的に離婚するというのは、離婚裁判で勝訴することです。
つまり、有責行為をしたからという理由で、相手方の意思だけで離婚届を提出していいわけではありません。
また、離婚を拒否した場合、相手方がいきなり離婚裁判を請求することは認められていません。というのも日本では、離婚については調停前置主義という考え方が採用されており、離婚裁判を行うには、前提として離婚調停を行う必要があるからです。
したがって、夫婦で話し合う離婚協議や裁判所を仲介とした離婚調停で配偶者の意思を変えることができれば、離婚を回避することができます。
ただし、一時的に離婚を回避できたとしても実質的な夫婦関係の回復がなければ、結局は離婚するという結果になりかねません。
そのため、離婚を回避するのであれば、夫婦同士で話し合う離婚協議の段階で、相手に誠心誠意謝罪を行い、反省の意を示す必要があります。
自身の有責行為を原因として相手方が離婚の意思を持った場合、その意思を変えるのは非常に大変です。
特に離婚調停までに発展し、争いが長引くと夫婦関係の修復が実質的に不可能になることもあります。
そのため、離婚を回避したいと思うのであれば夫婦間の争いが大きくなる前に離婚カウンセラー等への相談を検討してみましょう。
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有責配偶者になると慰謝料を支払わなければいけないのか
有責配偶者は法律上の離婚事由に当てはまった行為をしたひとのことです。
有責配偶者は、自分から離婚裁判を請求できないペナルティがある以外に、相手方から配偶者としての権利を侵害したことによって精神的な苦痛を理由に慰謝料を請求される可能性があります。
慰謝料を支払うことで離婚を回避できる可能性がある
慰謝料の支払いというと、自身の有責行為を認めたことになるのでデメリットばかりというイメージをお持ちの方もいるかもしれませんが、決して悪いことばかりではありません。
特に相手方との婚姻関係を継続したい場合、反省と謝罪の意味をこめて慰謝料を支払うと、相手方の怒りがやわらぎ、婚姻関係を継続できるケースもあります。
ただし慰謝料を支払うにしても、相手方との話し合いには細心の注意を払う必要があります。
というのも、相手方の傷ついた心に配慮することなく交渉を進めた場合、「このひとはすべてお金で解決しようとしている」と思われてしまい、かえって相手方の離婚の意思を強くしてしまいかねません。
したがって、「心の傷は本来お金で解決できるものではないのはわかっているけど、誠意を示したい」といった姿勢で交渉することが大切です。
慰謝料はゼロを目指すより減額を目指した方が通りやすい
自身が有責配偶者になり、相手方から慰謝料を請求された場合、本音をいえば「支払いたくない」という気持ちになる方も少なくないと思います。
しかし、慰謝料を支払いたくないからといって、有責行為を認めていたのに意見を翻したりすると、かえって事態が悪化するケースがあります。
そのため、有責行為を認めざるを得ない状況の場合には、相手方との話し合いで慰謝料の減額交渉をした方が受ける不利益を小さくする可能性が高くなります。
例えば、相手方から300万円の慰謝料を請求された場合、支払い自体を拒むのではなく、相手方の自身に対する憤りや不満、怒りを受け入れ、配慮したうえで減額交渉を行うことが大切です。
【離婚の知識】離婚の慰謝料について知識を深めよう!
まとめ
今回は有責配偶者が離婚を回避することができるのか、また慰謝料の支払いについて考えてきました。
有責行為をした場合、離婚を回避できるかどうかは、相手方が自身の有責行為を許し、かつ夫婦として今後も継続しようと意思を持ってくれるかどうかです。
夫婦関係の継続には、有責行為の性質、悪質性等、さまざまなものが関わってくるかと思いますが、最も重要なのは、相手方に誠意を見せ、「許して信用してもいい」と思ってもらうことが大切です。
許しや信用を得るために、相手方ときちんと向き合い話し合いを進めましょう。
とはいえ、当事者同士ですとどうしても感情的になり、言い争いに発展してしまうリスクがあります。
調停や裁判等、段階が進む分だけ離婚回避できる確率も低くなると思いますので、困ったときには弁護士へ相談することも検討しましょう。
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