離婚は夫婦の合意があれば、どんな理由であっても成立します。
しかし、相手が離婚に合意しない場合、最終的に離婚を成立させるためには、法律で定められている離婚事由が必要です。
法律上の離婚事由の中に、悪意の遺棄というものがあります。
悪意の遺棄とはいったいどのようなものなのでしょうか?
配偶者が家事や育児をしない場合悪意の遺棄にあたるのでしょうか。
今回は、相談事例を交え、家事・育児しないことが悪意の遺棄にあたるのか、またそれを理由に慰謝料を請求できるのかを解説していきたいと思います。
家事・育児を一切しないぐうたら夫から慰謝料を取って離婚したい!
相談者:伊予(仮名)34歳
夫:守(仮名)35歳
息子:寛太(仮名)5歳
夫の守との離婚を考えています。
彼のぐうたら具合に理解できないし、許すことができずもう我慢の限界です。
守とは婚活アプリで出会い、交際期間を1年経て結婚しました。
結婚当時、私は27歳、守は28歳でした。
結婚した理由としては、守がお互いフルタイムで働くことを望んでいたこと、家事や育児に対して積極的に参加したいといってくれていたからです。
実際、守自身4人兄弟の次男だったため、幼いころから母親の手伝いや、下の兄弟のお世話などをしていたそうで、恋人時代部屋に遊びに行ったときも料理をしていること、掃除や洗濯などをこまめにしていることが垣間見えました。
家事や育児に抵抗感がないことは私が結婚を考えるうえで大きなポイントでした。
性格も明るく、友達も多いコミュニケーションが上手なひとだったので、夫として支えてくれるだろうと思いました。
ところが、思い描いていた理想の未来と現実は大違い。
完全に失敗でした。
私たちは、結婚して一緒に住むときに家事は折半すること、子どもの妊娠や出産の際には家事分担を多めにしてもらうということを約束していました。
結婚当初こそ守は週に半分くらい家事をやってくれましたが、それも1,2か月くらいで次第に掃除洗濯はもちろん、得意だといっていた料理もしないし、皿洗いやごみ捨てなどもしなくなりました。
守いわく、「仕事が忙しいから」と言い訳していましたが、平日彼の帰る時間は18時から19時くらい。
対して私は20時から21時のあいだで家にいる時間は守の方が多いです。
普通先に帰ってきた方が、夕飯の準備くらいするでしょと文句を伝えたら、「料理の手際が良いのは伊予だから」といって、ソファでごろごろスマホゲームするばかりです。
乾燥機に入った洗濯物も片付けてないし、掃除も自分の書斎はめちゃくちゃきれいにしているのに、リビングなどの共用スペースは服を散らばしたまま。
この時点でさっさと離婚していればよかったのですが、結婚してまだ2年しかたっていないのに見切りをつけるのは早いかなと思いとどまってしまいました。
それからほどなく、寛太を妊娠していることが発覚しました。
私はつわりがかなりひどかったため、仕事や家事がままならない状態になり、伏せることが多くなりました。
幸か不幸か体調の悪い私の姿をみて、守は家事をしてくれるようになりました。
また、「今まで甘え切っていてごめん。これからは伊予の負担をできるだけ減らせるよう家事ちゃんとするから」と謝ってくれました。
それから出産を迎えるまでは、私の代わりにこまごまと家事をやってくれ、本当に助かりました。
子どもが生まれた後の家事と育児に不安を覚えていましたが、この様子なら大丈夫と思いました。
が、彼が家事・育児を負担してくれたのは、出産後わずかな時間だけでした。
出産後私は育児休暇を取得し、1年間家にいることになりました。
守は、「1日中家にいるんだから、いくら育児が忙しいとはいえ家事は伊予がやればいい」とこともなげにいってきました。
産後、出血が続き体力がなかなか戻らない状態だったので、家事に協力してほしいといいましたが、「それは甘えだよ」といわれました。
結局、夫は寛太が機嫌のいいときだけ相手をするだけで、家事や育児はほとんど私が行いました。
妊娠中にあった気遣いは何にもなく、出産後は寛太が泣いてても自分はスマホに夢中。
夜泣きのときは、「うるさいから早く落ち着かせてよ」と手伝いもしない。
いっさい協力しない守に嫌気がさし離婚したいと考えましたが、毎日家事や育児に追われ、実行する気力もありませんでした。
育休が明けると育児と家事の他に仕事もあるのでますます忙殺され、離婚したいとは思えどもどうにか目途がつくまでは、難しいと感じました。
最初に離婚を考えてから5年以上、来年寛太は小学生になります。
今も育児は大変ですが、出産時の忙しさよりは大きく違うので、だいぶ余裕が出てきました。
来年寛太が小学生に上がる前に、離婚を成立させたいです。
また家事や育児に協力しないことは悪意の遺棄にあたると聞いたことがあります。
できることなら慰謝料を取って離婚したいです。
どうすればよいでしょうか。

弁護士の見解
今回の相談者である伊予さんは、夫の守さんの家事・育児に非協力的な態度を理由に慰謝料をとって離婚したいと希望されています。
まず、家事や育児に非協力的な態度は、悪意の遺棄にあたるのかということを考えていきたいと思います。
悪意の遺棄とは、夫婦生活が破綻すると知りながら、夫婦の義務である同居・協力・扶助の義務を行わないことを指します。
例えば、特別な事情もなく一方的に別居したり、生活が困窮すると知りながら家計にお金を入れなかったりということなどが挙げられます。
今回の伊予さんのケースが悪意の遺棄にあたるかといえば、残念ながらその可能性は低いでしょう。
家事・育児に非協力的な態度は、一見すると夫婦の協力の義務違反にも思えます。
しかし、「協力」とは実際に家事や育児を行うことだけではなく、家計にお金を入れるといった経済面で支えることも協力のうちです。
守さんが家計に一切お金を入れず、家事・育児にも協力しないのであれば悪意の遺棄にあたる可能性が高くなりますが、生活費を入れていた場合には協力していないとはいえません。
慰謝料は夫婦が双方にもつ権利を侵害されたときに受けた精神的苦痛に対するお金なので、今回の伊予さんのケースでは慰謝料の請求権が生じないと思われます。
そのため慰謝料ではなく、離婚の話し合いのなかで財産分与の割合を多くなるようにするなど別の方法でお金が得られるよう交渉していった方が良いかもしれません。
また、伊予さんは離婚を息子の寛太さんの小学校入学前に成立させたいという希望を持っていらっしゃるかと思います。
慰謝料の問題などで夫婦間の争いが起きてしまうと、離婚が成立するまでの期間が長くなる傾向にあります。
そのため、離婚するにあたり「早く成立させたいのか」、「より多くのお金を得たいのか」など、自分が優先したいことを考えておくと良いと思います。
ただし、親権や養育費などの問題で条件の折り合いがつかず、離婚の合意が得られない場合には、別居することも視野に入れておくと良いでしょう。
また当事者間での離婚の話し合いがうまくいかない場合には、弁護士に依頼して条件交渉を代理してもらうことも検討しましょう。
まとめ
今回は家事・育児に非協力的な態度が悪意の遺棄にあたるのかを相談事例を交え解説していきました。
不満に感じる方が多いと思いますが、家事・育児に非協力的な態度がただちに悪意の遺棄になるわけではありません。
離婚する以前の問題として、関係が悪化した夫婦にはコミュニケーションが不足しがちということが考えられます。
そのため、夫や妻の家事や育児に不満がある場合には、口に出して伝えることも大切です。
そのうえで、相手の態度が変わらないようであれば、改めて離婚することを考えてみると良いかもしれません。
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