最近セクハラやパワハラなどのリテラシーが高くなり、以前であれば問題にならなかった言動が労働問題になる可能性があります。
加害者のなかには、社会の意識の移り変わりに順応できず、無意識にセクハラやパワハラにあたる言動をしてしまうひともいるでしょう。
今回はセクハラ行為によって会社を辞めた夫のことが許せず、離婚したいと考えている女性の相談事例を紹介していきたいと思います。
下ネタばかりいって会社を退職した夫と離婚したい
相談者:真里(仮名)37歳
夫:正(仮名)39歳
娘:三奈(仮名)11歳
夫の正とは社内恋愛で結婚しました。
正は明るくて冗談が好きでひとを笑わせることが好きな性格です。
会社でも忙しくて部内の雰囲気が悪いときに、ちょっと間の抜けた発言をして場をなごませてくれるようなひとです。
私自身は物事をネガティブに考えがちな性格をしているので、正の底抜けな明るさに何度も救われました。
正と結婚して15年。
下ネタや冗談が過ぎたり、家事や育児が雑だったりと細かな不満はありましたが離婚なんて頭によぎったこともありませんでした。
夫婦仲も良好で、父親として夫として日々家族のために頑張ってくれている彼にとても感謝していました。
正が「会社を辞める」と私に伝えたのは、1か月くらい前のことでした。
私は娘の三奈を妊娠したときに会社を辞めましたが、正は大学を卒業して以来20年近く勤めていました。
順調にキャリアを積んでいる様子でしたし、特に夫はキャリアアップのため転職するタイプというよりも、ひとつの会社に定年まで勤めるタイプだと思っていたのでとても驚きました。
理由を聞くと、40歳を前にチャレンジをしてみたかったからといわれました。
正直、仕事に関する愚痴は聞いていなかったし、退職するにしても家族がいるんだから事前に相談は必要だと思いました。
私が思っていることを正に伝えると、ご機嫌を取るような口調から急に不機嫌になって、「仕方がないだろ。男なんてそんなもんだ。次の会社もすぐ決まるだろうし、給料は少し低くなるかもしれないけど、心配ないから」なんてことをいいました。
つい数か月前までは、「次の期で昇進するぞ!」と意気込んでいたのに矛盾してると更に突っ込もうと思いましたが、ここで喧嘩になるのも嫌だし、給料が下がった分は私も仕事をある程度増やして補填していけばいいやと考え直し、正の意思を尊重することにしました。
自主退職する本当の理由が分かったのはそれから1週間後のことでした。
私たち夫婦は、家族貯金と称して毎月正が1万円、私は5000円ずつ娘名義の口座に貯金をしていました。
家族貯金は、娘が成人になったら海外旅行でもしてパーッと使おうという目的で貯めている貯金で娘が1歳になったときから始めました。
生活に使う口座とは別に管理していて、入金も夫婦それぞれの給料口座から引き落としするように設定していたので、実際の残高を確認することはほとんどありませんでした。
ふとどれくらい貯まっているのか気になり、銀行に記帳しに行ったところ残高は120万でした。
思ったより少ないなと記帳の履歴を確認したところ、ちょうど正が退職するといいだした日あたりに50万円ほど引き落としされていました。
50万円なんて私たち家族にすれば大金です。
というより、急な出費なら私に相談の上、別途貯蓄している口座から引き出せばいいはずです。
それをめったに確認しない家族貯金の口座からお金を引き出すなんて、何かやましいことがあるに違いないと思いました。
はじめは不倫を疑いました。
不倫だった場合、正に直接聞くと言い逃れされる可能性が高いと考え、会社の元同僚に最近夫に変わった様子はなかったかと探りを入れました。
すると、「悪気がないとはいえ、女子社員のストッキングを頭からかぶるのはないよね。下ネタもえげつなかったし。結局その子とは示談して自主退職で収まったらしいけど、女としては結構許せないよね。もしかして離婚とか考えてんの?」といった返信が来ました。
ストッキングをかぶる?下ネタがえげつない?
40歳を前にキャリアアップしたくて退職決めたんじゃなくて、会社の温情で自主退職になっただけで、普通に最低なことをしてんじゃん。
不倫相手にブランド品でも贈る資金のため貯金を使ったんじゃなくて、被害者の女性へ渡す示談金の捻出のためお金を使ったのか…。
千年の恋も冷めるといいますが、重要なことを家族に伝えず、隠そうとした正が許せません。
早速、その日の夜に正を問い詰めました。
最初は口を重たくしていた彼でしたが、私の激昂ぶりに観念したのか会社でどんな言動をしていたのか話し始めました。
- 大きい声で夜の生活に関する下ネタをいっていたこと
- 自分のスマホに保存してあるエロ写真を女性社員にみせつけていたこと
- 女性社員に、「ナイス谷間」、「お尻大きいとスカート破けない?」といっていたこと
- 新人の女性社員のカバンからストッキングを勝手にとって頭からかぶったこと
- 社員旅行で酔っ払い、女性もいるのに自分のイチモツ自慢をしたこと
正は話終えた後、「でも直接胸や尻を触ったわけじゃないから!」、「悪気はなかったしみんなも笑ってたから」と言い訳をしてきました。
悪気がないなら、なお悪いわ。
正がお調子者で下ネタが好きで冗談が好きなのはわかって結婚しましたが、ここまでTPOをわきまえていないとは思いませんでした。
しかも家族貯金から引き出した50万円は案の定女性社員との示談の解決金として支払ったようで、自主退職だから退職金で補填しようと思っていたという始末です。
セクハラの件はひととして最低ですが、それを隠して退職理由をキャリアアップのためとほざき、謝罪もなければ言い訳ばかり。
夫婦の信頼関係は崩れ、もう修復は不可能だと思っています。
離婚を考えているのですが、夫がセクハラしたことや退職理由を隠していたことは、離婚するときに有利に働くでしょうか。
また、示談金で支払ったお金は退職金とは別に補填してもらうことはできますでしょうか。

弁護士の見解
今回の相談者の真里さんは、夫の正さんがセクハラで退職したことを隠したまま夫婦の貯金に手を付けたことで夫婦の信頼関係が崩れたことを理由に離婚を考えています。
まず、正さんが会社でセクハラしたことが法律上の離婚事由にあたるのかを考えていきたいと思います。
セクハラ行為が法律上の離婚事由になるのかは、セクハラの程度やセクハラをしたことで夫婦関係に与えた影響によって大きく異なります。
例えば、性行為の強要などの身体的接触を行って、被害者の方や会社から訴訟を起こされたといったケースでは、夫婦関係に与える影響が大きいとされ、民法第770条に定められている、「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたる可能性が高いです。
今回の真理さんの場合、「婚姻を継続し難い重大な事由」に認められるかどうかは微妙なところです。
というのも陰部を露出するような行為やセクハラ発言をしていたとはいえ、被害者の方とは示談が成立していますし、会社側の温情措置で懲戒解雇ではなく、自主退職となっています。
ただ一方で、示談をしなければならないセクハラ行為をしていたことも事実ですし、またセクハラ行為を真里さんに隠し、何も相談なく示談金を支払ったことについても夫婦の信頼関係を破綻させるような行為ともいえます。
細かな状況がつかめないと、法律上の離婚事由に認められるのか判断が難しいので一度弁護士に相談した方が良いでしょう。
なお、法律上の離婚事由に認められない場合、離婚協議か離婚調停で離婚成立を目指すことになります。
次に財産分与について考えていきたいと思います。
真里さんは、正さんに対して、示談金として使った費用を正さんが退職時に受け取る退職金から補填するのではなく、他の方法で清算してほしいと希望されております。
真里さんが清算を希望しているのは、財産分与は夫婦が半分ずつの割合で受けとることが基本ということを聞いたことがあるからではないでしょうか。
確かに、夫婦の共有財産を財産分与するとき、夫婦の一方の収入が非常に高額といった事情をのぞき、それぞれ半分ずつ財産を受け取る権利があります。
とはいえ、夫婦の共有財産の中には、預貯金などの金銭以外にも、マイホームといった不動産や、自動車や家具、電化製品のような動産、株式などの有価証券、生命保険金の解約返戻金といった半分に分けられない財産もあります。
このような場合には、話し合いによって相手の合意を取れれば財産分与の割合は好きに決められます。
真里さんの場合、財産分与をするときに示談金に使った50万円は、正さんの自分勝手な言動によって支払うことになったのだから、差し引いて考えてほしいと伝えてみると良いと思います。
合意が取れない場合には、争いが大きくなる前に弁護士への相談を検討しましょう。

まとめ
今回は会社でセクハラをして自主退職になった夫と離婚したい女性の相談事例を紹介しました。
会社でセクハラして自主退職する夫との離婚というと、当然妻が有利に離婚できると思う方もいらっしゃるでしょう。
しかし、仮に懲戒解雇になったとしても、それ自体が有責行為といえないので、有利に離婚を進めたいと思うのであれば入念な準備が必要です。
法的に何が有効なのか豊富な法知識がなければ難しいので自力では解決できないと感じたときには弁護士に相談してみてください。
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