離婚の問題は、離婚が成立すれば「はい、おしまい」というわけではありません。
特に子どものいる夫婦が離婚する場合、取り決めする項目は今後に関わる重要な問題です。
今回は、ある女性の相談事例から離婚時に取り決めておくべき項目を詳しく解説していきたいと思います。
【離婚が決まった!】離婚後早めにすべき手続きが知りたい!
主人公:芽衣子(34)
夫:拓真(37)
娘:恵麻(6)
夫の拓真と私は、2022年12月31日に離婚します。
離婚の理由としては、生活のスタイルや育児に対する意見の違いです。
私たちは共働き世帯でそれぞれ正社員として働いています。
娘の恵麻が生まれたときに、「お互い時間がないので家事や育児は協力し合うこと」、「協力体制ができるよう仕事を調整すること」を決めていました。
私は、教育関連に携わっている仕事をしていて、育児に理解のある職場だったので、時短勤務等の制度を使いながら仕事と育児を両立していました。
拓真も男性の育児を推進している企業に勤めているので、育児休暇や時短勤務、リモート勤務等を利用する予定でした。
ところが気が変わったのか何なのかわかりませんが、結局のところ育児は私任せで、保育園行事にもほとんど参加してくれませんでした。
私としては、子どもが生まれたからには優先順位は、恵麻が一番だと思っています。
しかし、拓真は私と同じ認識を持っていないようで、「あくまで仕事が優先。育児は芽衣子がやればいい」と主張をひっくり返してきました。
以来ほぼワンオペ状態で育児を行ってきましたが、何もしないで自分のことを優先する拓真に対し、我慢しきれなかったので離婚を切り出しました。
離婚すること自体については、あまりもめることなく同意を得ることができました。
離婚条件の取り決めについては、少々もめたところもありますが、夫婦の話し合いで次のように取り決めました。
【離婚の条件】
■恵麻の親権:私
■財産分与について
共有財産:預貯金800万円、自動車(残り半年の自動車ローンあり)、家具、家電、私と拓真のつみたてNISA
財産分与は、預貯金を800万円のうち500万円が私、300万円は拓真が取得することになりました。
自動車については私が免許を持っていないので、ローンを含めて拓真が引き取ることになりました。
家具・家電についてはもともと私が結婚前から使っていたものが多かったので、すべて私がもらい受けました。
つみたてNISAは、分けるのが面倒ということで分与の対象にしませんでした。
■養育費:月々6万円(私年収400万円、拓真年収600万円から計算)
上記の離婚条件は、一応書面にしてそれぞれの署名と判子を押してあります。
財産分与は預貯金についてはすでに分配済みで、自動車名義はもともと夫なのでそのままです。
家具・家電に関しては現在の家に引き続き住む予定なので特に何をするということはありません。
離婚の準備としては、抜かりなくできたのかなと思っているのですが離婚後に想定されるトラブルや、他に行っておくべきことはあるのでしょうか。
弁護士の見解
今回の相談者の芽衣子さんは、離婚の話し合い自体はスムーズに済んでいます。
離婚条件についても、親権・財産分与・養育費を取り決めているので、一見すると不足が無いように思えます。
しかし、内容を確認すると、以下の点が不足しています。
- 養育費の期間や受け取り方法
- 面会交流について
それぞれ確認していきましょう。
養育費の期間や受け取り方法
今回、芽衣子さんと拓真さんは、恵麻さんの養育費について月々6万円の支払いを取り決めています。
月々6万円という金額は、それぞれの収入を裁判所の公表している養育費算定表に当てはめて考えてみても、妥当な金額だと思われます。
ただし、養育費は金額だけではなく養育費を支払ってもらう期間や受け取り方法についても取り決めておいた方が良いでしょう。
養育費の支払い期間については恵麻さんの進路によって異なるかと思います。
現在まだ6歳とのことですので、遠い将来のことであまり想像がつかないかもしれません。
そういった場合には、高校に進学する前提で高校卒業年の3月まで養育費を取り決めておいたり、大学進学を前提に大学卒業年の3月まで養育費を取り決めたりしておくと良いでしょう。
なお、養育費の支払い期間を子どもの年齢に準じて表記する場合には、「子どもが満〇歳になる月まで」といったように年齢が明確にわかるかたちで表記しましょう。
「子どもが成人するまで」というような表記にすると、養育費支払い期間中に法律が改正されて成人年齢が変更になった場合、元夫婦のあいだで認識の齟齬が発生する可能性があります。
成人年齢が変更されたとしても、取り決め時に定められている成人年齢が適用されることに変わりはありません。
しかし、相手方が「養育費の支払いは現行の成人年齢で良い」と勘違いし、トラブルになりかねませんので注意しましょう。
また、養育費の支払い期間の取り決めとともに、受け取り方法についてもしっかり取り決めておくことが重要です。
受け取り方法は、一般的に銀行振り込みで次のように取り決める方が多いと思われます。
〇〇の養育費の支払いについては、毎月〇日に以下、金融機関に振り込むこととする。
金融機関名:〇〇銀行〇〇支店
口座の種類:普通
口座番号:〇〇〇〇〇〇〇
口座名義:〇〇〇〇
養育費の受け取り方法については振り込みの他にも直接手渡しで行う方法や、今後電子決済で行われる可能性もあります。
どの受け取り方法でもスムーズに受け取ることができれば問題ありませんが、「支払った」「支払っていない」といった、トラブルを避けるため振り込み履歴が残るような方法で取り決めを行った方が良いでしょう。
なお、現在芽衣子さんは離婚の取り決めを公正証書にしていないと思われます。
離婚の取り決めを公正証書にしなかった場合、養育費が不払いになったときにその離婚協議書では強制執行の手続きを行うことができません。
養育費のような離婚後も継続して支払いがあるお金は、万が一養育費の滞納が発生したときでも対応できるよう、強制執行認諾文言付公正証書にした方が良いでしょう。
【離婚するなら必須?】自分で書いた離婚協議書と公正証書の違いについて
面会交流について
面会交流とは、子どもと離婚等で子どもと別居している親が継続的に会ったり、連絡を取り合ったりすることを指します。
面会交流権は、子どもや非同居親の持っている権利なので、虐待等の特別な事情がない限り、子どもや相手方が望むのであれば基本的に拒否することができません。
というのも面会交流は、子どもの利益が最も優先されるからです。
今回の芽衣子さんの場合、恵麻さんは6歳とまだ幼いので、お子さんが自発的に面会交流を行えないと考えられます。
したがって、拓真さんと話し合い、面会交流の頻度や交流の方法を決めておくと良いでしょう。
現在は、WEB会議システムやSNSの機能等によって、直接会うことは難しくてもお互い顔を見ながら会話することができます。
さまざまなツールを使って、相手方との面会交流を行うことを考えた方が良いと思います。
なお、面会交流の権利と養育費の支払い義務は別々の問題として考えられるので、「養育費を支払わないなら子どもに会わせない」といった主張は認められません。
ただし、面会交流を充実することで、非同居親の親としての責任や子どもへの愛情を再認識できることもあります。
【面会交流って何?】離婚後、元配偶者と面会交流を取り決めるべき理由とは
まとめ
離婚するかどうかは夫婦ふたりの意思によって成立します。
離婚の取り決めは夫婦の問題である一方で、子どもの今後の生活に大きく影響を及ぼす可能性のある重大な取り決めです。
離婚の理由によっては、相手方と冷静に話し合うことができないかもしれません。
相手方がどうしても許せず、離婚の取り決めをしないで離婚したくなってしまう方も少なくないでしょう。
しかし、何も取り決めを行わず離婚した場合、最も不利益を被るのは、ご自身の大切な子どもです。
子どもが両親の離婚によって受ける影響を最小限に留められるよう、離婚の取り決めは必ず行いましょう。
取り決めることがわからない、相手方と冷静に話し合うことができない等のトラブルがある時には、弁護士へ相談することも検討してみてください。
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