夫婦が離婚する場合、双方の合意があれば離婚届を提出する手続きだけで成立します。
取り決めた離婚条件によっては離婚届を提出する他にも手続きが発生することもありますが、離婚自体の手続きはかなり簡単です。
しかしこれはあくまで夫婦間で離婚をめぐり争いになっていないことが前提です。
今回は離婚協議で折り合いがつかない場合、離婚調停を申立てる前に準備しておくべきことについて解説していきたいと思います。
そもそも離婚調停とは?
離婚調停とは、夫婦間で離婚の合意や離婚条件が整わなかった場合に家庭裁判所を仲裁役にして話し合いで争いの解決を目指す方法をいいます。
家庭裁判所は1つの調停に対し、調停委員会を作って対応します。
調停委員会のメンバー構成は次の通りです。
①裁判官(調停官)
裁判官は離婚調停のリーダー的な役割です。調停委員や家庭裁判所調査官から話を聞き、当事者の主張などを把握します。
実際の調停の場に常にいるとは限りませんが、調停が成立した場合の読み合わせには必ず出席します。
調停官とは非常勤の裁判官のことで弁護士が裁判官の役割をすることをいいます。
②裁判所書記官
③調停委員
男女2人以上で構成され、当事者同士の仲裁役を務めます。
なお調停委員が選出される条件は社会経験が豊富で良識のある一般市民であることであるため、法的知識が豊富というわけではありません。
④家庭裁判所調査官
上記で構成されたメンバーで離婚調停は進められます。
離婚調停で話し合えることは、離婚の合意に関するもの以外にも、次のようなものがあります。
- 親権
- 養育費
- 慰謝料
- 財産分与
- 年金分割
離婚調停で話し合うことはあくまで、夫婦の離婚の合意に関することや離婚条件に関わるものに限られます。
そのため、別居している場合に婚姻費用を請求したいときには、別途、婚姻費用請求調停の申し立てを行う必要があります。
実際の話し合いについては離婚調停と一緒に行うことの方が多いですが、手続き自体は別であることは意識しておきましょう。
また、配偶者の不倫が原因で離婚する場合、不倫相手に対して慰謝料を請求したいと考える方は少なくないと思います。
不倫相手への慰謝料請求は離婚調停で話し合うことができません。
離婚調停で話し合えることは、当事者が夫婦であることが前提です。
したがって不倫相手への慰謝料請求は、交渉を行い協議で成立させるか、地方裁判所などに慰謝料請求の訴訟を申し立てて請求するか、いずれかの方法になります。
管轄の裁判所が異なるなど手続きに違いがあるのでご注意ください。

離婚調停の申し立て準備①希望する離婚条件を明確にする
離婚調停を考えたときに、まず行うべきこととして、ご自身が望む離婚条件を明確にすることです。
はじめに、自分で思いついた親権、財産分与、養育費、慰謝料などの条件を箇条書きにしてみましょう。
自分の希望するすべての条件を洗い出したうえで、「これだけは譲れない」という条件はどれなのかを考えてください。
離婚調停は裁判と異なり、話し合いで解決を目指す場です。
そのため、話し合いいかんによっては、調停委員から妥協案を提示されることがあります。
調停委員から提示される妥協案が、ご自身にとって譲歩できる条件なのか、それとも譲歩できないものなのか判断を迫られる可能性が高いです。
実際には、譲歩したくないことなのに、譲歩してしまうと後々、後悔することもあるので「これだけは絶対に譲れない」と思う条件を明確にしておくことが大切です。
しかし、あまりにも非現実的な離婚条件や理に適っていないと思われる離婚条件を提示すると調停委員からの心証を悪くします。
例えば、相手方の年収が300万円であるのに、毎月子ども1人につき30万円の養育費を請求するといった内容を提示した場合、請求額が相手方の年収を超えています。
このような場合、調停委員が「申立方の主張には合理性がなく感情で話し合いに臨んでいる」と判断してしまう可能性が高くなり、後々の調停の流れに悪影響を及ぼすことがあります。
また、当事者の提示する条件があまりにもかけ離れていると調停自体の回数も多くなり、離婚が成立するまでにかなりの時間を要すことにもつながりかねません。
離婚の原因によっては、相手方に強い悪感情を抱いており、なかなか冷静に判断をつけることが難しいとは思いますが、なるべく離婚原因と離婚条件は切り離して考えた方が良いでしょう。

離婚調停の申し立て準備②結婚から離婚までの経緯をまとめる
離婚調停を行う前の準備として、夫婦が結婚してから別居、または離婚を決断するまでの経緯を時系列順にまとめておくことが大切です。
経緯をまとめるというのは、一見簡単にも思えることかもしれませんが、実際は非常に大変な作業です。
特に婚姻期間が長いほど、まとめることが多く、一層複雑になります。
経緯をまとめる方法としては、まずは結婚が成立した日、子どもが出産した日、離婚を切り出した、あるいは別居した日など、すぐに書き出せるようなものを骨組みにすると良いと思います。
大まかな流れを骨子として肉付けしていってください。
少しわかりにくいと思いますので、以下の表をご確認ください。
日付 | できごと |
20××年1月10日 | ○○と結婚。婚姻届を提出 |
20××年12月3日 | ○○の不倫疑惑。スマホのSNSを見たところ、△△というひととラブホに行ったというやり取りを確認した。 |
20××年3月1日 | ○○に問い詰めたところ、△△との不倫を認めた。 |
20××年3月31日 | ○○の不倫が原因で別居することになった。 |
上記の表のように、婚姻から別居や離婚を切り出すまでの間の出来事をこと細かに記載しましょう。
メールやSNS、日記などを参考にして、どのような出来事がいつあったのかを具体的に記すことが大切です。
また、今回は相手方の不貞行為を例に出しましたが、モラハラやDVなどの場合、日常的にくりかえされており、なかなか時系列でまとめることが難しい場合もあります。
このようなときには、まず日付がはっきりしている相手方の言動を記載しましょう。
そのうえで、備考欄などをつくり、「20××年1月ころから日常的に暴言を吐かれるようになった」といったような内容を盛り込みましょう。
相手方の言動については、「暴言」や「暴力」といった言葉だけではなく、実際に言われた言葉やどのような暴力行為をされたかなど細かく記載しておくことも非常に大切になります。
離婚調停の申し立て準備③証拠書類の収集
離婚調停前の準備として、自分の主張を裏付けるような証拠を収集することが挙げられます。
例えば、相手方のモラハラ行為で離婚したいと考えたときには、自分がされたモラハラ行為の連続した録音データやLINEなどのメッセージのやり取り、日記やメモなどを使って、日常的にどのような扱いを受けていたのかを、調停委員に伝える必要があります。
証拠があれば、ご自身の主張の信ぴょう性がまし、調停を有利に進めやすくなります。
なお、相手に隠して録音、撮影したモラハラやDV、不貞行為の自白などの録音データや動画は、「不正に入手した証拠だ」と相手方から非難されることもあるかもしれません。
しかし実際は、脅迫など違法行為をして入手したなどの特別な事情がない限り、証拠として認められないことはありませんのでご安心ください。
まとめ
今回は離婚調停を検討した場合の事前準備について解説していきました。
離婚調停をご自身が希望する条件で成立させるためには、事前準備が必要不可欠といっても過言ではありません。
また、調停中主張がぶれず、一貫した姿勢を持つということも重要です。
離婚に至った理由によってはどうしても主観を排除することができず、感情的になってしまうこともあるでしょう。
そんな時は、「自力でどうにかしよう」という前に弁護士への相談を検討した方が良いでしょう。
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